TEDレジデントのひとり、清水ハン栄治氏(映画「happy」プロデューサー)も「登壇する人のほとんどが、自分にそんな価値があるのかと戸惑う。ハリウッドの名優、トム・ハンクスですらそう」と語る。
大勢に向けてプレゼンテーションするのに、果たして自分はふさわしいのか? TEDが選ぶような素晴らしいスピーカーですら、いや「素晴らしい」と言われるからこそ、「自分はふさわしくない、選ばれていいのか」と思ってしまうのだという。
清水氏によれば、これはインポスター症候群とも言われ、TEDレジデンシー・プログラム(半年ごとに選んだ人材を14週間ニューヨークの本部でインキュベートするもの)で指摘されたことのなかで、最も印象に残ったものだという。
経験や実績を積み重ねても、自信を持つどころか、周囲を欺いているのではと後ろめたさを感じ、不安にさいなまれるインポスター(詐欺師)症候群。達成した成功を自分の力によるものでなく、運がよかっただけだと思ったりする、自己評価が低い心の持ち方です。
有名人や高キャリアの人に多くみられますが、70%の人々が少なくとも一度はインポスター症候群を経験した事があるという研究結果もあり、一般の人々も直面するものなのです。病気ではないので、コレという治療法はないのですが、著名な人でも同様に体験する問題であると知ることで、気持ちはずいぶん楽になります。
神のような憧れの存在も“ただの人”
インポスター症候群とは異なりますが、誰かを神のように思うことがあります。日本人初のTEDスピーカーである世界ヨーヨーチャンピオン、BLACK氏の例を紹介しましょう。
BLACK氏は、もともと運動神経もよくない普通の学生でした。それが、ハイパーヨーヨーのブームから興味を持ち、外国人のチャンピオンに憧れ、周囲の人たちの協力を得て、ヨーヨーの動画を集めてもらい研究を続け、ついには大学1年生だった2001年に、ヨーヨー世界大会で優勝したのです。
喝采を受けたTEDメインステージでのBLACK氏のパフォーマンス
とはいえ、メディア的にはほとんど注目もされず、やがて普通の会社に就職しましたが、いやこれではいかんと一念発起。2007年に会社を退職して、パフォーマーとしてデビューするという経歴を持っています。
BLACK氏は、神と仰いでいた世界的なジャグラーのVictor Kee氏との交流の機会を持ち、大きな衝撃を受けたと言います。夕食をともにし、同じ料理を口へ運ぶKee氏の姿を見て、彼も神や異次元の存在ではなく、自分と同じ人間なのだ。ならば自分にも可能性があるのでは、と感じたのです。
またKee氏から、ヨーヨーのパフォーマーとして成長するにはバレエが重要だと言われ、BLACK氏はそれを習い始め、音楽やアートなどを取り入れたパフォーマンスへ進化していきました。
目標とする人を神のように思い、自分とは遠い存在と考えることは誰もが経験したことがあるでしょう。でも、自分には無理だと思ったらそれで終わり。なんとかなると思えば道は開けるのです。