ライフスタイル

2018.02.10 12:30

人はなぜ、故郷の味にほっとするのか?


うま味は“未来への愛情” 

うま味の代表的な物質としては、「グルタミン酸」「イノシン酸」「グアニル酸」などが知られています。グルタミン酸はたんぱく質を構成する20種類のアミノ酸の中の一つ。イノシン酸、グアニル酸は核酸に分類されます。

具体的にどのような食材に含まれているかというと、グルタミン酸は昆布やトマトなど植物に多く、イノシン酸は鰹節や豚肉など動物系、グアニル酸はシイタケなど。どれも乾燥や発酵、熟成を経た保存食としても親しまれているものばかりです。

となると、地域の知恵がつまった保存食は“未来への愛情”であり、そこに含まれるうま味は“未来への優しさ”と言えるのではないでしょうか。保存食をベースに考えられた伝統的な料理、故郷の味を食べてほっとする理由は、こういうところにあるのではないかと思います。
 
人は知恵から生まれた保存食によって、うま味成分を含んだ食材を中心に地域を築いている。これで、冒頭で伝えた「人間はうま味に服従している」という表現が少し分かっていただけたのではないでしょうか?

“未来への愛情”として受け継がれてきた料理や食事は、寛容や愛の象徴であり、人間の進化のカギです。連載1回目で「人を良くすると書いて食、人を良くする事と書いて食事」という話をしましたが、その「食」という最も基本的な知識が失われることが社会にとってどれほど不幸なことか。料理の知識は、だから大切なのです。

AIはまだ“愛”には及ばない?

僕はそうした知識を歴史や伝統の中に見つけるということをよくしていますが、知恵のつまった世界のレシピは“データ”でもあるので、人工知能(AI)が処理したり活用したりすることもできます。実際、料理分野でもAIの研究は進んでいて、IBMのシェフ・ワトソンというのを耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。

過去からヒントを得つつ、もちろん未来を見ていくことが大事なので、僕は昨年の夏から、予防医学博士の石川善樹さんと「AIなのか愛なのか?」という名目で、AIがどこまで料理を創造できるかという実験的な食事会をしています。


第2回「AIなのか愛なのか?」にて

伝統的な世界のレシピに共通する「うま味+薬味=健康」という方程式を軸に、AIがレシピを提案してくれるのですが……理屈では正しいけれど、味はまだ、もっと頑張ってほしいというところです(笑)。初回が昨年7月、わずか3か月後の第2回にはAIが着実に進化していて少し脅威も感じましたが、料理や土地への愛はやはり、自然と暮らす人間の方が深いです。

とはいえ、高齢化が進み、より健康に目が向けられるはずの社会においてAIが果たせる役割は大きいはず。第3回(2月16日開催)は、AIの提案に“ケアや愛情のヒント”を見つけ出すことへの挑戦とし、そこで得た発見はまたお伝えできればと思います。

ニース在住のシェフ松嶋啓介の「喰い改めよ!!」
過去記事はこちら>>

文=松嶋啓介

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