その中には日本人だから気づけたことも多く、宗教、言葉、習慣など、あらゆる違いがあったからこそ、見出せた価値もたくさんあります。
例えば料理人という言葉ひとつでも、それが持つ意味は異なります。フランス語では料理人を「cuisinier」と言いますが、cuisinierを日本語に訳してみると、僕が経験をしてきたフランスでいう料理人にはなりません。 cuisinierは「cuisson=火」と「maitriser=調整」を組み合わせたもので、「火を調整する人」が本来の言葉の意味になります。
フランス料理は火の調整、つまり、グリルしたり、フライパンで焼いたり、鍋で煮たり、蒸したり、茹でたり、オーブンでローストしたりと、巧みに火の種類を使い分けます。温度や火力の異なる加熱によって食材に熱のアプローチをすることで、素材の味を引き出したり、素材に味を加える料理なのです。だからキッチンでは、火入れの作業は花形の仕事になります。
この話は、MOF(フランスの国家最優秀職人章)を持つ友人に教えてもらったのですが、目から鱗で、仕事に対する考え方が変わったのを今でも覚えています。そしてこの言葉の裏に隠れた秘密は、この職業に就こうとしている若者には常に伝えるようにしています。
この連載「喰い改めよ!!」では、日本とヨーロッパを往復する生活の中で気づき、食を通じて築き上げてこられたことをシェアすることで、心の栄養や頭の教養のきっかけにできたらと思います。
ニースの海岸。20歳で渡仏し、25歳でこの地で独立。現在「KEISUKE MATSUSHIMA」やビストロを展開している。
食事で得られるもう一つの栄養
早速、説教くさくなりますが、「食」は「人を良くする」と書いて食。そして、「食事」は「人を良くする事」と書いて食事です。
まずはみなさん、1日にどれだけ食事の時間を取れていますか?
ただ栄養を補給する時間でなく、人を良くする事としての「食事」の時間です。それは、家族との時間、職場の同僚との時間、友人との時間……もしかしてこの時間が「食餌」の時間になっていませんか? 安全、安心で、栄養価のあるものを身体のエネルギーとして摂取していれば、それで大丈夫だと思っている人も多いのではないでしょうか。