昨年10月に行われた総選挙では、安倍晋三総理が、争点を「消費税使途の見直し」と設定した。2019年10月に予定されている8%から10%への消費税率引き上げによる5兆円の税収増の内一部の使途を変更。「幼児教育無償化」など、人づくり革命に2兆円をつぎ込むということである。
従来は、5兆円の税収増の内、1兆円を「社会保障の充実」、4兆円を「財政赤字の削減」にあてるとしていた。「財政赤字の削減」といっても、消費税増税分は社会保障関連に使途が限定されているので、すでに実行されている4兆円分の社会保障関連支出を新規国債発行ではなく、恒久財源である消費税で手当てする、という意味である。
つまり、増税による税収増の一部、2兆円を幼児教育の無償化にあてるというと聞こえはよいが、実は、2兆円を幼児教育の無償化などを新規国債増発でまかなう、といっているのと同じである。
そこで、第一の疑問は、「幼児教育無償化」が、国債を増発してまで実現する価値のあることなのかということだ。特に、国と地方自治体との財源負担の関係が不明。幼児教育無償化の具体的な中身だが、幼稚園の学費を無償にする、ということだけが決まっているようだ。しかし、多くの市町村や東京23区では、すでに、さまざまな形で幼稚園への補助が行われている。
図1は、東京都台東区で実施されている国・都・区の補助の額を、所得階層別に示している。この図からわかることは、国の補助金が、すでに実施されている市町村の補助を肩代わりする「財政移転」だけに終わり、幼稚園児を抱える家庭には恩恵が及ばない可能性がある。それとも、現在の補助を超える部分だけ国が肩代わりして、全員の無償化を図るのだろうか。
第二の疑問は、政策の優先度についてだ。幼児教育無償化よりも、待機児童の解消のほうが急務なのではないか。そもそも、この「幼児教育無償化」と「待機児童ゼロ化」の関係はどうなっているのだろうか。実は、幼児教育無償化は、待機児童ゼロ化とは無関係だ。
待機児童ゼロ目標の達成時期について、安倍総理は、2017年度末から20年度へと3年延期することを、17年5月に表明していた。表1に、全国の待機児童比率(1万人あたり人数)の上位10都道府県を書き出している。そもそも保育所は「幼児教育」の一部ではない。所管も文部科学省ではなく、厚生労働省である。幼稚園は、学校教育法に根拠があり、保育所は児童福祉法に根拠がある。
保育所は、「日々保護者の委託を受けて、保育を必要とするその乳児又は幼児を保育すること」(児童福祉法39条)が目的となっている。「保育を必要とする」とは、両親が共働きであったりして、家庭で保育をできる状況にない、ことをいう。もう少しわかりやすくいうと、もともとは、両親が共働きをしないと生活が成り立たないような貧困家庭の乳児や幼児を「福祉」の観点から預かるという発想である。したがって、両親が共働きか、預けなくてはならない事情があるかどうかを入所審査するのである。