なぜ今、HRテックが注目されているのか。HRテックの導入で働き方は本当に変わるのか。慶應義塾大学大学院経営管理研究科・岩本隆特任教授は、HRテックによって、会社員もプロスポーツ選手のようにデータに基づいた評価が進み、企業と社員の関係性も変化していくと見る。
──HRテックのスタートアップがかなり増えています。日本のHRテックの特徴はありますか。
日本はHRテックのスタートアップが成長をしていますが、欧米ではSAPやオラクル、ワークデイなど10社で市場の約半分を占めている状況です。欧米の大手は(採用、育成、定着など)様々な分野を連携させた横断的で包括的なサービスを提供しています。
大手の包括的なサービスを導入するには、経営トップの意思決定が必要です。日本企業の多くは経営トップが導入を決定しないので、部門単位、あるいはトライアルで使うケースが多く、大手の包括的なサービスが使いづらい。そこで、スタートアップが提供する、ビジネスSNSや人事評価プラットフォームなど特定のファンクションだけのサービスが非常に伸びています。
日本のスタートアップの機能はシンプルでトライアルしやすい。一人月100円などの安いサービスが主流です。逆に大手もスタートアップと連携したり、似たようなサービスを出したりし始めています。
他に日本のHRテックで需要があるのは、ハイパフォーマー分析ですね。
──ハイパフォーマーはどのような人ですか?
新しいビジネスを生み出すイノベーターです。多いのは、大企業では海外の現地法人で社長をやっていた人。ハイパフォーマーの生み出し方はまだ体系的になっていません。生まれつきの素質やこれまでの人生の経験など、多様な要素があるので、分析が難しい。私が関わった企業では、入社後のデータを分析して、100%ではないがある程度の相関関係が出ました。特定の経験を積ませることでハイパフォーマーになる。素質と経験両方あるようです。そういう人を意識的に選び、どういう経験を積ませるのか、ということができます。
私が関わった企業では、ハイパフォーマーは外で活躍する人ではなく、社内をドライブできる人でした。プロジェクトマネージャーとして組織横断で人をドライブした経験がある人です。オープンイノベーションする前に、社内オープンイノベーションが重要だとよく指摘されています。やたらと外に出たがる人がいますが、あまりハイパフォーマーではなかった。
できない人は会社の仕組みがこうだからと不満を言いますが、社内のがんじがらめの中で組織を動かせることがハイパフォーマンスにつながっていました。