「スペック」と「情熱」での競争を避けたい
岩佐:岩井先生はさらに、ほぼ日は必ずしも成長を求めていない点がユニークとも言っています。糸井さんたちは意識的に「お金では買えない何か」を重視しているのでしょうか。
糸井:僕たちは「スペック」と「情熱」という2つの競争を避けたいと考えているんです。前回も少しお話ししましたが、いままでの会社は価格や業績といったスペックばかりを重視していました。言語化できて、対比可能で、どれくらい安全なのかを確率で算出して。それでなおかつ大成功する方法を考えている。そうやってみんなでスペックを比べ合うから、嘘をつくところが出てしまうんですよね。そんなことばかりしていたら、会社がイキイキしているかどうかなんて誰も気にしません。
岩佐:それはスペックではありませんからね。
糸井:さらにこういう環境では、多くの若い人は労働時間や追い込みといった「情熱」で実力をカバーしようとします。でもこれが成功するとは限らないし、無理をしすぎて身体を壊してしまうかもしれませんよね。僕は、そういうやり方は嫌い。だからほぼ日は、楽しそうに仕事をしているとか、伝えるべきことを丁寧に記事にするとか、そういうところで勝負しているんです。
資本主義に逆行することで、むしろ企業として成長できると語る糸井。第3回では、彼の資本主義観がより明確に語られる。(続く)
糸井重里◎株式会社ほぼ日代表取締役社長。コピーライター、エッセイスト、作詞家として幅広く活躍する。1998年に開設したほぼ日刊イトイ新聞は、1日140万PVのアクセスを集める。
篠田真貴子◎株式会社ほぼ日最高財務責任者CFO。日本長期信用銀行(現・新生銀行)、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2008年より現職(当時社名・東京糸井重里事務所)。