ほぼ日の独創的な活動の源泉ともいえる、糸井のポリシーとは──。
資本主義に最も逆行した会社が、世界一の時価総額企業になっている
岩佐:前回の記事で、8時間半にわたる総会を開いたのは、ほぼ日のことをもっと知ってもらうためだとおっしゃっていました。「異例」の取り組みといえば、総会内で開催された東京大学経済学部名誉教授である岩井克人さんの講演も、ほかでは絶対に見ることができませんよね。なぜ彼をお呼びしようと思ったのでしょうか。
糸井:昔から岩井さんのご著書、『貨幣論』や『会社はだれのものか』などを読んでいましたが、最近は世の中の動きがますます岩井さんの主張した方向に向かっていると思っていて。ぜひ、岩井さんの口からほぼ日について語っていただきたかったんです。
岩佐:岩井先生と言えば、一貫して経営者は株主のエージェントであるという株主主権論に対し、論理的に矛盾を指摘されておられます。
糸井:そうなんですよ。Mistletoeの孫泰蔵さんが岩井さんの論を何度も引用していて、そのことを確信しました。泰蔵さんは日本を代表するシリアル・アントレプレナーです。彼とは一度しかお会いしたことがないのですが、フェイスブックで岩井さんの「株主が会社の主権者だというのは論理的に矛盾している」という論を引用していて。
篠田:最前線で投資をしている孫さんが信頼しているのなら、株主の方々にも理解してもらえると思って岩井さんに打診したところ、快く引き受けてくださいました。当日は、株主の皆さんと一緒にほぼ日について考えるというスタンスで講演をしてくれました。
岩佐:講演では、ほぼ日については必ずしも株主を必要としていない会社だと言い、その株主であることの意義を問いかけて締めくくる、まさに衝撃的な講演でした。
糸井:岩井さんが話してくれたのは、資本主義におけるパラドックスです。例えばGoogleは、ある意味もっとも資本主義的ではない会社です。社是に利益ではなく情報の整理を掲げ、社員にものすごく手厚い環境を与えています。さらに議決権の構成では創業者が過半数を占め、市場に流通している株式は議決権が小さい。しかし、そんな資本主義らしくない会社が世界の時価総額トップになっているのが現代なんです。
このGoogleと同じパラドックスがほぼ日にもあるのだと、岩井さんはおっしゃっていました。もちろんほぼ日はGoogleよりはるかに小さい規模ですし、社是もはっきりしていません。しかし、「お金では買えない何か」を提供しようとしている点は共通しているんです。