ビジネス

2017.12.07 16:30

「裏側を表にス!」 ファンを味方にする方法

表と裏を逆転させると面白くなる(illustration by Kenji Oguro)

表と裏を逆転させると面白くなる(illustration by Kenji Oguro)

今回は、電通総研Bチームが東京藝術大学デザイン科で行なった授業から出てきたコンセプトを採集。

普段は作品制作に没頭している学生が提案するビジネスシーンでも役に立つ発想法、それは「裏側を表にス!」。完成度の高い「表」と誰も知らない「裏」のコントラストをはっきり見せることで、ファンを味方につけるストーリーが出来上がるのでは?


表裏のあるものって、意外に素敵なのかもしれない……そんなテーマで書かせていただきます。美大に通って作品を作る日々は、材料費との戦いの日々でもあります。キラキラした変な紙とか、ピカピカした変な塗料とか。

そんな変なものを買う資金調達のため、大学を卒業するまで、地元のショッピングモールにある某アパレルブランドでアルバイトをしていました。スーツなども売っている、それなりにちゃんとしたお店だったのですが、働いてみてびっくりしたのが、お店の裏側でのスタッフ同士の密なコミュニケーション。

お取り置きの服にお客様の情報を書いたメモを貼り、「お子様の入園式用ジャケット。ブラウスも合わせておすすめして下さい」とか「黒のパンツに合わせるセーターをお探し。予算1万円。本日入荷の新作もお出しして下さい」とか。自分がお客さんとして行っていただけでは分からなかった、裏側での気遣いがこんなにたくさんあるんだな〜と、とても感心しました。

それと同時に、この裏側をもしも表に出したとしたら、もっとファンが増えるんじゃないかな? とも思いました。 そうして周りを見てみると、裏側を前面に押し出したことで、新しい価値を獲得した例をいくつか見つけることができました。

例えば、ケント・ロゴスキー氏のアート作品。テディベアの裏表をひっくり返してもう一度縫い合わせたロゴスキー氏の作品は、一目見ただけで子供たちの絶叫が聞こえてきそうな風貌で、テディベアの意外な裏の顔を見せてくれますし、かわいい表側を作るための裏側の苦労を感じさせてくれます。

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NY在住のアーティスト、ケント・ロゴスキーの作品「Bear」。世界で愛されるぬいぐるみを裏表に。

AKB48のドキュメンタリー映画もそうです。普段はニコニコしているアイドルたちが、衝突したり、泣きじゃくったりしながらも頑張る裏側の姿が描かれています。キラキラした表側を作るための汚い裏側をあえて見せることで、人々の目に映る表側は深みを増し、より多くの共感を得られるようになりました。

今年、ADC賞のグランプリを獲得した「INDUSTRIAL JP」をご存じでしょうか。町工場の機械から生まれる精密な音と映像で作られたミュージックビデオを通して、今まで知らなかった町工場のかっこいい裏側を覗き見することができます。 音と映像で町工場の「機械」に思い切りフォーカスすることで、見る側がそれまで持っていた「3K」的な印象をクールに裏切り、町工場に対しての大きなイメージアップに繋がっていると思います。


町工場を音楽レーベル化するプロジェクト「INDUSTRIAL JP」より浅井製作所のイメージ。

これらの事例には、物理的な裏表と構造的な裏表という違いはありますが、共通しているのは、表側がどれも素晴らしいということと、裏側はそもそも見せるために作ってはいないということです。表側をより良いものにしようと努力した結果、副産物として裏側にも美しさや物語が生まれている。それらはきれいなものではないかもしれませんが、それが表側とのコントラストによって相乗効果を生み出しています。

このコントラストが強いほど効果は高くなり、たくさんのファンを味方につけるストーリーが出来上がるのではないでしょうか。つまり、何かを作ったとき、見つけたときに、その裏側をつかってなにができるだろうかと考えてみる。さらに表裏のコントラストを意識してみると、おもしろいものを生み出しやすくなるんじゃないかと思うのです。
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文=槙野結

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電通Bチームの NEW CONCEPT採集

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