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2017.11.11 15:00

現代アートで蘇る12世紀の古城、美術館顔負けの展覧会も

左:Andrew Hall 右:Christine Hall (photograph by Shinji Minegishi)

左:Andrew Hall 右:Christine Hall (photograph by Shinji Minegishi)

ドイツ北部の都市ハノーヴァーは、18世紀にハノーヴァー選帝候が英国王に即位している関係から、英国の雰囲気漂う都市でもある。また、2000年には万博が開かれ、坂茂の紙の建築による日本館が話題となった。

今回訪ねたデルネブルク城は、そのハノーヴァーの南約50キロにある。約1000年前に修道院として建てられた同城は、その後1814年に貴族の居城となった。

この由緒ある城の現在の主は、米国の著名現代美術コレクターであるアンドリュー・ホール夫妻のホール美術財団だ。同財団は、ホール夫妻の5000点におよぶコレクションを所蔵し、この城の他に米国ヴァーモント州の酪農場にも展示の点を持つ。さらに、米国マサチューセッツ現代美術館、英国オックスフォードのアシュモレアン博物館ともパートナーシップを結ぶなど、活動範囲はまさにグローバルだ。


手前はバゼリッツの彫刻<シング・サング・ゼロ>(2012)。バルコニーにはゴームリーの<シート>(2017)。

ホール氏の経歴は実にまたユニークだ。コレクターには珍しい理系出身。オックスフォード大学で化学を専攻した後、商品取引のフィブロ社、ヘッジファンドのアステンベックキャピタルのトップとして名を馳せた。リーマンショックの際も相場を的確に読み、その翌年に約100億円のボーナスを手中にして話題をさらった人物でもある。

大のマスコミ嫌いとして知られるが、取材を申し込む際も、経済誌であるForbes誌の名前を出すや否や、かなりの拒絶反応が返ってきた。そのためか、ホール夫妻へのインタビューおよび写真撮影は一切不可。一般向けツアーに参加中の取材のみOK、というNG尽くしの中で取材は始まった。

城内に一歩足を踏み入れると、何とも言えぬデジャヴュにおそわれた。それもそのはず、ホール夫妻が06年にデルネブルク城を購入するまで、ここはドイツを代表する画家、彫刻家ゲオルグ・バゼリッツの住まい兼アトリエだった。私自身も二度ほど訪問したことがある。

外観は一切変えられていないが、当時に比べて大幅に修繕が施されたのがわかる。

元修道院ならではの天井が高い礼拝堂は、かつてはバゼリッツがスタジオにしていた。今では展示スペースに様変わし、スーパーリアリズムの先駆者マルコム・モーリーの船を描いたシリーズが展示されていた。その隣にはモーリーに船を描くのを勧めたリチャード・アーシュワーガーの一連の作品、そしてバゼリッツがもう一つスタジオとして使用していたスペースにはモーリーの弟子だったジュリアン・シュナーベルの横5メートルはあろうかという巨大抽象画群が展示されており、1960年代以降のアートの流れが見て取れるようになっていた。

毎年異なるキュレーターによる展覧会が企画され、7月から10月にかけて一般に公開している(要アポイントメント)。今年はモーリーの展覧会を含め同時に7つの展覧会が催されている。美術館も顔負けだ。

その中で、展示空間とアートとの関係で特に印象に残ったのが、イギリスの彫刻家アントニー・ゴームリーの展示であった。日頃、アートには生活空間を新たな空間に変える力があると唱えている私だが、今回は逆に城の持つ歴史の重みが、現代のゴームリーによる作品に深みを与えているのをひしひしと感じた。

例えば、4万体もの小さなテラコッタの像からなる《ヨーロピアン・フィールド》(1993年)。この膨大なテラコッタ群が鑑賞者よりもやや低い位置に展示されているために、見上げて必死に何かを訴えかけられているかのような錯覚にとらわれる。「格差問題や移民問題をどうするの?」「こんなにいろいろな人種(個々のテラコッタの色の濃淡がそう感じさせる)がひしめき合っている。なんとかしてくれ!」という声が聞こえてきそうでもある。


アントニー・ゴームリー<ヨーロピアン・フィールド>(1993)現代美術家の登竜門ターナー賞受賞作。
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文=石坂泰章

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