「(こういう形で)AIをエンターテインメントに活用するという思考は、将来日本の強みになるかもしれない」。以前、MITメディアラボの所長の伊藤穣一さんとAIについて話した時にそんなことを言われました。
伊藤さん曰く、「日本人はAIやロボットに対して独特の感性を持っている」とのことでした。今のところ海外では、AIを業務の効率化のために活用するケースが多く見られるが、日本はちょっと違うと。日本マイクロソフトが開発した女子高生AIの「りんなちゃん」やソフトバンクの「Pepper」などが代表例だが、AIにかわいさや人格をまとわせて、親しみをもたせることに成功している。
こうしたものが生まれる背景には、鉄腕アトムやドラえもんといったロボットを当たり前のように見てきた国民性も関係しているのかもしれないし、そのことはひょっとしたら大きな強みになるのかもしれない、と言うのです。
たしかに、どら焼きを食べるロボットに対して何の疑問も持たずに、受け入れてきた僕たちです。伊藤さんのお話を聞いて、もっと自由な発想でテクノロジーと向き合わないといけないなと改めて強く思いました。
去年の秋、六本木アートナイトというアートイベントで、NHKが誇る8K(スーパーハイビジョン)モニターに「円周率1万桁を表示する」という展示をしたんですね。これは「おやすみ日本 眠いいね」という番組のプロモーションの一環で、みんなを眠りにいざなう展示をしようということで、番組制作班と一緒に企画したものです。
「眠いい円周率」というタイトルで、8Kモニターに円周率1万桁をびっしり表示して、それを市原悦子さんらが朗読するという展示内容だったのですが、「かつてない8Kのムダづかい」とお客さんからは大きな笑いを取ることができました。自分でいうのもなんですが、だいぶふざけた内容です。
でも、お客さんの足はしっかり止まるんですね。高精細だからこそ、数字を1万桁表示してもくっきりと数字が見える。8Kというテクノロジーの魅力を、楽しんでもらいながら存分に伝えることができました。
僕は常々、すごいテクノロジーほどできるだけ“平場”に持っていきたいと思っています。僕自身がテクノロジーに疎いので、よけいにそう思うのかもしれません。すごいものをすごいものとして見せてもらっても、僕にはそのすごさがなかなか分からないのです。
番組を作っていた時からずっと、井上ひさしさんの次の言葉を大事にしてきました。
「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく」
すごく心に響く言葉です。もちろんこの言葉を十全に満たすモノづくりなんてなかなかできません。やさしくできなかったり、ふかくできなかったり、おもしろくできなかったり。試行錯誤は続きますが、この言葉を大切にしていれば、いつの日か圧倒的な数の人々に喜んで使ってもらえるモノを生み出せそうな気がするんですよね。
そんなモノにZUNOさんがなれるのかどうかは、まだまだ未知数ですが。頑張ろうね、ZUNOさん!
番組を作らないNHKディレクターが「ひっそりやっている大きな話」
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