ファッションディレクターの森岡弘とベテラン編集者の小暮昌弘が「紳士淑女が持つべきアイテム」を語る連載。第8回は、グッチのホースビット ローファーをピックアップ。
森岡弘(以下、森岡):我々がいた編集部ではみんなこぞってグッチのホースビット ローファーを履いていた時期がありましたね。
小暮昌弘(以下、小暮):森岡さんはそうとう早い時期から「ビット、ビット」と騒いでいたひとり。でも森岡さん、このビット ローファーって、我々よりもキャリアが長いって、知っていましたか?
森岡:そりゃ、そうでしょう。私が欲しくて騒いでいたのは、確か1990年代でしたけれど。
小暮:この靴が世に出たのは、1953年。その名の通り、馬具のくつわ=ホースビットをヒントにつくられた靴で、メンズ靴史上で、装飾を目的としたディテールが加えられた初の靴といわれています。
森岡:この靴を見て最初に感じたのは、とにかく“カッコいい”ということでした。誤解を恐れずに言えば、それまでは靴は靴でしかなかった。それがこの靴は靴そのものが主張している。その魔法に魅せられたのです、私も。
小暮:稀代の伊達男、フレッド・アステアもいち早く履きましたしね、モダンでカジュアルな印象もありますが、クラシックなスタイルにも合うんですよね。私がこの靴に注目したのは、アメリカのスナップ写真で、野外のパーティか何かでシアサッカーの着こなしにこの靴を合わせた強者を見てからかな。素足かカラフルなソックスに合わせていたと記憶していますが。
森岡:私も最初に素足で革靴を履いたのはグッチのホースビット ローファーです。黒の表革。すぐに金茶のスエードも買い増して、2足とも、いつも素足で履いていました。金茶のモデルはいまも持っていますよ。
小暮:私がいまも持っているのはビブラムソールのモデルで、素材は黒の表革。ハイカットのブーツタイプとかも当時は人気でしたね。やはりあのビットのハードウェアが付いて、グッチがつくれば、みんな惹き寄せられてしまう(笑)。
森岡:今回紹介する靴は、このファー遣いも印象に残るけれど、甲に付いた金色のビットで、ひと目でグッチの靴だとわかるんです。艶っぽさがいいですね。
小暮:2015年にクリエイティブ・ディレクターに就任したアレッサンドロ・ミケーレは、グッチのアーカイブを隅から隅まで知り尽くしているといわれていますが、ホースビット ローファーはまさにグッチの遺産であり名品。だからミケーレがデザインで遊んでもグッチのものと誰にでもわかるし、こんなデザインにも変貌させることができるのだと思いますね。