こうした企業モデルは、米国の高級ブランドとしては新しいものだ。だが、米国ではアパレル企業のVFコーポレーションがすでに、この形態の構築によって成功を収めている。さらに、タペストリーの最大の競争相手であり、コーチのケイト・スペード買収とほぼ同時期に高級靴ブランドのジミー・チュウ買収を決めたマイケル・コースもまた、同様の戦略を掲げているとされる。
タペストリーとマイケル・コースはどちらも、買収を検討する相手企業は米国に限らない方針と見られる。ロビン・ルイスによれば、「単一ブランドが無限に成長を続けていくことは不可能だ」。小売・ファッション業界の公開企業が現在の市場において成長を維持するためには、これが唯一の戦略だという。
問題は「需要と競争」
だが、コンサルティング会社の米ヴァーヴ・マーケティング&デザイン(Verve Marketing & Design)の創業者でコンサルタントのダイアン・レモナイズは、この戦略がタペストリーの命綱になるのかどうかは分からないと指摘する。
「・・・一つに縫い合わせられたブランドは、全て一緒に沈んでしまうかもしれない」
ソーシャルメディア上のコーチのフォロワーや投資家らも、レモナイズと同じ見方のようだ。市場と富裕層の消費者意識・行動に関する調査を専門とする筆者もまた、世界が今以上に高級ブランドのコングロマリットを必要としているかどうかについては懐疑的だ。
だが、一方で筆者は、需要や各社の業績から見れば、単一ブランドの長期的な成長維持は困難だとするルイスに意見に同感だ。タペストリーのビジョンの成功の鍵を握るのは、国内外の次世代の消費者たちに、高級ブランドの商品を欲しいと思ってもらえるかどうかにかかっている。
ただし、今後のタペストリーを待ち受けているのは、恐らく同社が考える以上に激しい競争だろう。容赦ないLVMHグループやケリング、リシュモンに立ち向かうことになるのだ。