ビジネス

2017.06.22 08:00

「注文をまちがえる料理店」のこれまでとこれから


僕はこれまで数多くの社会課題を取材してきましたが、その中で一つ思っていたことがあります。それは「社会課題は、社会受容の問題であることも多い」ということです。

もちろん社会課題解決のためには法律や制度を変えることが重要なのは当たり前です。でも、僕たちがほんのちょっと寛容であるだけで解決する問題もたくさんあるんじゃないかなぁとも思っていました。例えば、電車に乗せるベビーカーにキレたり、同性婚の是非みたいな議論などは、社会の受容度、寛容度が高ければ解決することも多いように思います。

「注文をまちがえる料理店」も同じ発想です。当たり前ですが、この料理店で認知症の様々な問題が解決するわけじゃありません。でも、間違えることを受け入れて、間違えることを一緒に楽しむ。そんな新しい価値観をこの料理店から発信できたら。そう思ったらなんだか無性にワクワクしたんですよね。

ワクワクをあたため続けて5年。去年11月から、本格的に仲間集めを始めました。「注文をまちがえる料理店ってのをやりたいんですけど・・・」と話して回ったら、わずか2か月あまりで、デザインやPR、デジタル発信やクラウドファンディング、民放の記者や雑誌の編集者、そして外食サービスや認知症介護の和田さん…各分野の最高のプロフェッショナルたちが集まり、実行委員会が発足しました。

発足してすぐに出来たのが、注文をまちがえる料理店のロゴマークでした。海外の賞を多数獲っている天才デザイナーが考えてくれました。ちょ、ちょっと待って、なんなのこのかわいさ。“てへぺろ”に、注文をまちがえるの“る”が横になっているこの感じ。37歳のおっさん(僕)が気持ち悪いですが、胸のキュンキュンがとまりませんでした。

他にもすごいアイデアがどんどん出てくるんですよ。そこはもう、みんなプロなんで。僕は目の前で起きていることがまるで夢のようで、「こんなドラクエがあったら、速効でゲームクリアできるのに」と思っていました。

その後、何度かのミーティングを経て、いよいよ6月3日、4日の2日間でプレオープンすることが決まりました。“プレ”としたのは、本当に「注文をまちがえる料理店」というコンセプトが受け入れられるのかを実験してみたかったからです。

その際、僕たちが大事にしようと決めたことが2つあります。

1) 料理店として、来てくれた方が十分満足できるような味にこだわる
2) 間違えることは目的ではない。だから、わざと間違えるような仕掛けはやらない

1はとても大事な視点でした。僕たちの中に福祉的な“いいこと”をやっているという意識が出てくると、そこに甘えが生じる可能性があります。でも、「いいことやっているんで、多少いけてなくても許してね」は絶対にダメ。仮に自分たちがお客さんで来て、ハンバーグを頼んだのに餃子が出てきて、その餃子がおいしくなかったら、なんだか許せない気がしたからです。

「どのお料理が出てきてもおいしい」。それが担保されてはじめて、間違えられても笑って許せる雰囲気が生まれるのではないかと思いました。

この点は、実行委員会のメンバーの木村周一郎さん(ブーランジェリーエリックカイザージャポン代表取締役)が中心になって、完璧にオペレーションしてくださいました。木村さんも参加している、外食サービス企業の若手経営者が集まる勉強会「77会」に声をかけさせてもらい、吉野家ホールディングスの河村泰貴社長と高級中華料理店新橋亭の呉祥慶社長が参加してくれることに。そして、なんと3社によるオリジナルメニューを提供いただけることになったのです。

q

木村さんが展開する超人気フランスパンのお店、メゾンカイザーのこだわり生地を使った「スペシャルきまぐれピザ」。吉野家HDの「ハンバーググリル 牛バラシチュー」、そして新橋亭の「ぷっくり手包みエビ入り水餃子」。僕たちも試食をさせてもらいましたが、どれも最高に美味しい料理ばかりです。さらに、値段やアレルギーの問題には最大限配慮するべきという木村さんの意見を反映させて、値段は1000円均一、アレルギーについてはお客さんに申告してもらうオペレーションを組むことにしました。
次ページ > 間違いがコミュニケーションになり・・・

文=小国士郎

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事