で、サービスを開始して1か月たったのですが…これが数字的には全然イケてない。1.5チャンネル公式Twitterなんて「NHK公式なのにフォロワー500人以下。NHK1.5チャンネルの悲壮感漂うツイート」というまとめ記事まででてくる始末です。
おぉ、やっぱりテレビ屋がネットの世界でうまくやろうなんて、そもそも無理ゲーだったんだよ……と泣きそうになっていたんですが、希望の兆しもありました(あってよかったです)。
冒頭1.5チャンネルは、テレビから“はみ出した”サービスだとお伝えしましたが、ここがポイントです。テレビから“飛び出して”いるわけじゃない。1.5チャンネルで配信している100本のコンテンツはすべて、NHKの番組をズラして、少しだけ“はみ出す”形で作られています。半身を伝統のテレビNHKに置いているからこそ、安心していろいろなチャレンジができるのです。
具体的に言うと、60年続く「きょうの料理」の場合、「きょうの0.5品料理」というコンテンツを1.5チャンネルで作っています。平野レミさんをして「この人がいなかったら、きょうの料理はなりたたない!」とまでいわしめる、料理助手のかんべさんという方をフューチャーして、あまってしまった食材で調理する簡単レシピ動画を作りました。
たとえば、きょうの料理で扱う食材がキャベツだったとして、放送後に一番多い問い合わせは「あまったキャベツをどうしたらいいですか?」というものでした。だったら、長年きょうの料理を支え続けたかんべさんの知識とアイデアをお借りして、究極のあまりものレシピを作ったらいいよね!ということで生まれた企画です。
それ以外にも、20年続く長寿番組「ガッテン!」で毎回紹介されるスゴ技を30秒程度で納得できるようにした「爆速ガッテン!」ですとか、「ドキュメント72時間」という番組を大体1分ちょっとで読めるコラムにした「ドキュメント72秒」、貴重な動物映像に放送作家や芸人がアテレコする「動物吹替動画」などなど。これまで放送ではやれなかった、テレビの枠からはみ出した企画にどんどん挑戦していける土壌が生まれたんです。
繰り返しになりますが、やっぱり“はみ出す”くらいがちょうどいいんだと思うんです。先ほどあげたような番組は、大切なNHKの財産です。そしてこの財産がまだまだ膨大に眠っている。だからわざわざNHKを飛び出して、ゼロから物を作る必要なんてない。1から少し“はみ出して”、1.5くらいのことをやるだけでも、十分に新しい価値を生み出せるんじゃないかと思ったりするのです。
実は、少しずつ成果も出てきています。1.5チャンネルのメインユーザーは、なんと25歳~34歳。僕らを悩ませてきたあの「アンダー59」問題を解決する糸口になるかもしれません(と言っていますが、まだまだボリュームが小さいですし、ものすごく控えめに言っておきますね)。
振り返ってみると、僕は“はみ出す”ことを常に意識して会社人生を送ってきたなぁと思います。この連載の第1回目の「プロフェッショナルアプリ」についていえば、1.5チャンネル同様、番組から“はみ出して”作ってみました。第3回目の「企業留学」。これはまさに“はみ出し”の典型です。転職じゃないんです、あくまでも留学。中途半端で、ちょっとかっこ悪いかもしれないですけど、僕は常に“はみ出し”人生でした。
やっぱり怖いんです、飛び出すのって。あまりにも多くの先人が言っている通り、この変化の激しい時代にあって、その場にとどまり続けるのはとても危ないことです。それは分かりますが、僕にはその場から飛び出すことはなかなかできません。
だから、ちょっとずつ“はみ出して”みる。なんだか気が楽になります。それなら普通の僕にもできる気がしてきます。もちろん変化は小さいかもしれませんが、ふと気が付いたら自分の周りの景色が変わっているかもしれません。
そう思うと、1.5チャンネルっていう名前はよかったのかなと思っています。1から「テンゴ」してみる。たったそれだけのことで、NHKのいちディレクターである僕でも、星野源さんのように、何か新しい価値が創造できるんじゃないかとワクワクしてくるのです。
あっ、すいません、星野源さんと同じようになんて言って。星野さんと同じところなんて、30代男性というだけでした。もっとめちゃくちゃものすごく大変にはみ出して頑張ります。
番組を作らないNHKディレクターが「ひっそりやっている大きな話」
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