企業留学していた当時の名刺(筆者提供)

「働き方改革」の議論が高まる中、兼業や副業、出向など他の企業や組織に行くことが推奨される世の中になってきました。かく言う僕もかつてNHKを飛び出して“企業留学”していたことがあります。その行先は、大手広告代理店の電通です。

NHKには「国内派遣」という研修制度があります。これはNHKにいては得られないスキルや知見を、他の企業や団体で実際働きながら学び、本来の業務に生かすことを目的にしたものです。いわば短期間の“企業留学”ということになりますが、僕はこの制度を利用して、2013年10月~2014年6月の9か月間、電通で「PRプランナー(見習い)」として働きました。

実は、広告代理店への派遣というのはNHK史上初めてのことでした。だってCMのない公共放送NHKです。多くのNHK職員にとって、一生ご縁のない存在だったりするんです、広告代理店って。実際、僕を派遣する人事の担当者も「この前先方と打ち合わせしてきたけど、横文字ばっかりで、向こうでどんな仕事をするのか全然わからなかったよ(笑)」という感じでした。

でも、今なら断言できます。“企業留学”は超オススメです。商慣習や企業風土、価値観のまったく異なる他社の水にどっぷりつかって働く経験というのは、時に人生観をひっくり返すような衝撃を受けることもあり、なかなかに貴重で得難いものです。

おそらく人が留学と名の付くものに行くときには、それを後押しする理由があると思います。僕の場合は、“NHK的なものづくり”に対して、自分の中にどうにも処理できない葛藤が生じていたことが理由でした。

これはNHK独特の言い回しかもしれませんが、NHKでは番組のことを「作品」と呼ぶことがあります。僕も自分の作った番組をよくそう言っていました。これには良し悪しがあります。

まず良い面は、クオリティを高く保つための努力を怠らないということです。番組を作る際に「神は細部に宿る」というのはよく言われることで、放送直前まで1フレーム単位(1フレームは26分の1秒)で編集を直すことは普通のこと。自分たちが納得できる最高のものを作るためなら、取材でもロケでもいかなる努力も惜しみません。

一方悪い面は、市場のニーズを無視してしまい、独善的なものづくりに走ってしまうリスクがあることです。「NHKなんだから視聴率を気にすることはない」とよく言われます。でも僕はクローズアップ現代やNHKスペシャル、プロフェッショナルと多くの番組を作ってきましたが、常に数字は気になっていました。なぜなら、どれほど自分が素晴らしいと思っている内容でも、届かなければその価値はゼロじゃないかと考えていたからです。

いや、でも、まあそう思っていたんですけどね。実際はというと「視聴率はふるわなかったけど、中身はよかったよね」「大事なテーマほどなかなか届かないんだよね」「仕方ないよ、NHKは見てもらえないから」…こうした会話を、僕は嫌というほど繰り返してきました。

そして、ディレクターとして10年ほどが経ち、崇高なる作品主義を、番組を見てもらえないことの言い訳にしようとしている自分への怒りやら葛藤やらで悶々と悩みまくっていたちょうどその時に、電通への留学話がふってわいてきたのです。

文=小国士朗

 

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