第1回目の相手は、IBMのダグ・パウエル氏。IBMディスティングィッシュド・デザイナーを務め、同社ではじめてデザイナーとして理事に就任した人物だ。
IBMではデザイナーをよりスピーディーに顧客体験を統合できるための鍵を握る人材とし、デザイナーとエンジニアの比率を「1:30(2013年)」から「1:8」を目指して、デザイナー1000人以上を大規模採用。グラフィックやプロダクトのデザイナーだけでなく、共創を促進できるデザインシンカーもデザイナーと呼んでいる。今回のインタビューではIBMにおける施策の現状から哲学までを聞いた。
佐宗 : まず初めに、簡単に私の紹介をいたします。佐宗邦威と申します。主に日本企業を主軸に、デザインドリブンなイノベーション支援をする仕事をしています。私のキャリアは プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)のマーケティングから始まり、SONYのクリエイティブセンターで共創や人間中心デザインなどの方法論を使った新規事業や新規プロダクトの支援を経て、biotopeという戦略デザインファームを立ち上げました。
P&Gでは消費者ニーズをもとに顧客中心のブランドづくりを現場で実践し、SONYでは大企業の中であらゆるプロトコルで働く人達を動かす大変さを経験しました。
さて、今日のForbes Japanの読者は主に大企業のエグゼクティブです。多くの読者は自分のマネジメントがどう組織をクリエイティブに、そしてアジャイル(俊敏)にできるか、知りたがっています。
パウエル:奇しくも、数週間前にテキサス州のオースティンにある我々のスタジオに、P&Gのデザイン思考チームが訪れました。彼らはこの分野のリーダーです。実に面白い一日を過ごしました。デザイン思考の同僚たちとの交流はとても好きですね。
佐宗 : 本当ですか? P&Gは、私の卒業したイリノイ工科大学が21世紀初頭にデザイン思考を全事業部で導入する支援をしたエピソードもありますが、デザイン思考を取り組みが進んでいる企業の一つですよね。P&GとIBMの文化の違いは感じましたか。
パウエル : もちろん感じました。そもそも消費財の企業と企業向けテクノロジー企業なのでとても違いますが、同時に多くの共通点もありました。両社とも大きな組織特有の似た問題に直面し、企業内で様々な「島」ができてその間を行き来することがとても難しくなるという問題も同じです。佐宗さんもきっとこの問題をよく見ていると思います。
佐宗 : これはとても大きな問題ですよね。デザイン思考は、そうしたタコツボ化された組織や社会の中で断絶してしまっている人たちを繋げるきっかけとなりますが、これについては後ほどお聞きしたいと思います。
まずはパウエルさんのキャリアについてお聞かせください。2013年に米IBMに入社するまでは、自ら立ち上げたデザイン会社で働かれていました。なぜ、米IBMという大企業で働くことを決めたのでしょうか。
パウエル : 私はデザイナーのキャリアのなかで、中小企業も含め、多くのクライアントと仕事をしてきました。同時に、教育者でもあり、米国内のデザイン団体のコミュニティリーダーでもありました。これまでやったことがなかったのが、グローバル企業に対して、グローバルなスケールでデザインを用いることでした。