佐宗 : デザイン思考を日々の実務に活用する方法を考える際、その障壁となるのが「忙しさ」ですよね。ノンデザイナーは現状の自分たちの仕事があるため、新たな取り組みに多くの時間を割くことができないという声を聞くことが多いです。興味は持ってもらえるものの、片手間だとしっかりとした効果にまで繋がらないケースは多く見られると思うのですがIBMではどのようなことをされましたか。
パウエル : おっしゃる通りで、彼らは忙しいです。だからこそ、凝縮された体験を提供しました。様々な人に様々な方法で提供しましたが、たとえばエグゼクティブ向けのデザイン思考プログラムでは、「DESIGN DAY」という1日ワークショップを行いました。1日を通して、とてもアクティブなデザイン思考のワークショップを体験してもらいます。
これまでIBMのエグゼクティブ1000人以上が同プログラムを体験しましたが、とてもいい影響が出ています。変化を起こすためには、プロダクトやプロジェクトのチームとその責任者であるエグゼクティブというレイヤーがありますが、エグゼクティブにデザイン思考を体験し「デザイン思考信者」になってもらうことで、彼らは自らのチームにデザイン思考の活用が促され、急速に動き出しはじめます。
ジニー・ロメッティCEOが率先してデザイン思考を推進し出すと、急に皆が話を聞いてくれるようになりました。彼女のサポートはとても力になっています。2015年の社内レポートでも、デザイン思考について触れていましたが、「フォーチュン50」に入る企業のCEOが社内レポートでデザイン思考に触れることなど、かつてないことでした。とても恵まれています。
佐宗 : とても面白いですね。エグゼクティブはワークショップに対してどのような反応でしたか? デザイン思考はアウトプットまで時間がかかることも少なくなく、アウトプット重視なエグゼクティブに1日で価値を感じてもらうためにどう体験をデザインするかがとても気になります。
パウエル : エグゼクティブたちが1日のワークショップを通して達成できる期待値を明確にします。具体的には、デザイン思考に何ができるのか──ということです。それは、チームがより効率的かつ協力的に、そしてよりアジャイルに働くことを促すことです。それが実現した時に、期待されている「結果」もついてくるということです。
ですので、その道筋をしっかりと示す必要があります。デザイン思考が1週間で効果を発揮するような技術ではなく、真摯に取り組んで、はじめて、数四半期後に素晴らしい結果が待っているということを伝えます。
それは、新しいスキルの習得と同じです。テニスをはじめるときも、まずはラケットとボールを持って、ボールをあそこまで打たなければいけないと、複雑な動作を習うわけです。練習していくうちに、ボールがネットを越えるようになり、繰り返していくうちに、プロフェッショナル、マスターとなり、結果が見えてきます。もちろんこれはどんなメタファーでも表現できます(笑)。ビジネスリーダーに対してはこのように説明しています。[後編は3月25日公開]