「ユーザーが望む表現」で記事を書く 感性型AIの可能性

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「情報の個人化(パーソナライズ)が、今後はとても重要だと考えています」とイ博士は言う。

「地震情報にしても、速報性だけではなく、個人化がネックになる。地震が起きた地域では安全を確保するために多くの情報が必要となりますが、他の場所に住む人にとってはそこまで必要ない。証券記事も同様です。新聞などでは大企業の株の話題がよく掲載されます。該当する株を持っている人にとっては重要な記事になりますが、その株を持っていない人にとってはあまり必要な情報ではありません。むしろ、必要な情報はほかにあります」

イ博士らは現在、地震速報や証券ニュースの作成を手がける人工知能を開発する傍ら、個人化されたスポーツニュースを配信する研究も行っている。すでに実用段階にまで入ったとされるその人工知能の機能は、以下のようなものだ。

例えば、読者がある特定の野球チームのファンだったとしよう。同じ事実でも、ニュースによっては「9回裏、万塁逆転ホームランで勝利!」「9回裏、万塁ホームランでまさかの逆転負け!」と論調が異なる場合がある。ただ可能であれば、読者としては好きなチームの立場に立った論調の記事を読みたくなるはずだ。イ博士らの人工知能は、そういう個人の感情に根差したコンテンツ作成に活用される。

「我々が開発している人工知能は、カスタマイズによって、各ユーザーが重要だと思う部分を追加したり、個人が望む表現で記事を作成します。つまり、読み手の立場で記事が変わるのです。もちろん、ファクトを土台にしますが、受け手によって十人十色の情報を生みだすことができる」

精神に寄り添う感性型AIの開発は、少しずつ、だが確実に前に進みはじめている。人間の個々人の感性を理解しつつ、その感性を刺激する創作物を生みだす人工知能が実際に現れた時、人間社会はどう変化を遂げて行くのか。興味の尽きないテーマだ。

文=河鐘基

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