グローコム社については、2月27日、マレーシア警察がメディアからの問い合わせに対して、「そのような企業は存在しない」、との声明を発表している。
たしかに、グローコム社はマレーシアでは公式には登記されていない。しかし、ネットや国際展示会などで、同社は何年間にもわたって、公然と軍事用通信機器を宣伝・販売していた(写真は同社のHP、軍事通信機器・システムのカタログ)。国連時代に筆者は、マレーシア政府に何度も同社について公式に捜査協力を要請したが、ついにマレーシア政府からは何の協力も得られなかった。
普通の国であれば、非公然企業が軍事通信機器の宣伝販売をしていれば当然、取り締まり対象になるはずだが、マレーシア政府は北朝鮮のことなど気にもかけてなかった。先日、マレーシアの副首相は、この企業を「捜査する」と述べていた。こちらからすれば、「まだ捜査していなかったのか」、と驚愕の思いである。グローコム社の関係者がまだ国内にいるだろうか。
「日本生まれ」の女「リャン」が売り歩いたモノとは――
一人の女性が途方にくれたように事務机の上を見つめている。そこには大量の米ドル紙幣とユーロ紙幣が積み上げられており、足下には現金を隠していた旅行鞄が2つ置いてある。彼女の後ろから二人の男たちが不安そうに成り行きを見守っていた…。
これは、2014年2月17日、クアラルンプール国際空港の警察執務室での取り調べの様子だ。彼女の名前は「リャン・ス・ニョ(Ryang Su Nyo)」。北朝鮮政府発行の彼女の旅券情報には、「1959年8月11日」の「日本生まれ」とある。
出典:国連専門家パネル2017年度最終報告書、Annex 8-8
彼女こそ、パン・システムズ社の責任者である。2名の北朝鮮人男性は彼女の部下だ。45万ドル以上の現金を無申告で国外に持ち出そうとして警察に一時拘束された時の様子である。しかし、程なく「犯罪性が認められない」として、彼らは釈放される。マレーシア警察が知らなかったのは、彼らの本業が北朝鮮の軍事通信システムの密売であり、非合法の現金持ち運びが日常業務だったことだ。
偵察総局の非合法のインフラはいかにマレーシアに形成されたのか。この経緯を分析すると、強まる国際社会の監視網から必死に逃れようとするリャンたちの姿が浮かび上がってくる。