活用される技術の変化に伴い、求められる人材像も変化。宇宙物理学や宇宙工学の専門家ばかりだった宇宙業界も、民間との人材交流が活発化し、他分野の人材が続々と入ってきています。例えば、スペース Xは某自動車会社の工場長を採用。アメリカのシアトルでは、マイクロソフトやアマゾンのソフトウェア人材を目当てに、多くの宇宙ベンチャーが創業されています。
技術や人材をはじめ、業界全体のノーマライゼーションが進むことで、宇宙業界もIT、広告、バイオといった一般的な産業のひとつになったと言えるでしょう。
SFではない、来るべき宇宙の未来
ここで、30年の「近未来の宇宙」について考えてみましょう。まずは「宇宙の複数の拠点」に人間が存在することになります。月と火星をはじめとした惑星上、そして地上100kmのサブオービタル(準軌道)への宇宙旅行が頻繁に実施されることで、民間人も宇宙に滞在する時代を迎えます。
その頃には、人工衛星が加速度的に増加し、現在1400機から1万機を優に超える見込みです。人工衛星を打ち上げるために、大型と小型のロケットが毎日のように発射されます。
地上から電波を飛ばしているインターネット回線も、GPSのように宇宙から“降ってくる”こととなります。30年には、地上と宇宙のミックスによって、安くて高速なブロードバンドが地球上のすべての場所に届く環境が整っているはずです。
この「2030年の宇宙の近未来像」は、決して根拠のないSF話ではありません。現実的な産業の話であり、このような未来を想定して、実際に多くのプログラムが進行中です。
代表例は、イーロン・マスク率いるスペースXが16年発表した「火星移住計画」。同社は「人類を火星に到達させる」という設立時に掲げたミッション実現に向けて、早ければ18年にまず無人宇宙船「レッド・ドラゴン」を打ち上げ、24年には有人宇宙船の打ち上げをする計画を発表しました。
地球規模でのインターネット利用に向けては、ワンウェブが小型の通信衛星900機を打ち上げる計画を15年に発表。この計画により、地球低軌道に投入した人工衛星を用いてのインターネット通信を実現する「衛星インターネット網」が構築される予定です。こうした、宇宙に物体が増加する事態を受けて宇宙環境改善も必要です。アストロスケールも17年には微少スペースデブリを観測する衛星を、19年にはスペースデブリを除去する衛星の打ち上げを計画しています。
もちろん、宇宙経済圏を担う宇宙業界の現状は、人材も資金も技術もまだまだ十分とは言えません。しかしそれは“課題”ではなく、様々なプレイヤーがチャレンジし、業界全体が成長していく過程で自ずと満たされていく部分です。
むしろ「宇宙の未来に対する認識不足」の方が、宇宙業界が直面している課題と言えるでしょう。宇宙の未来にまつわる話は、ともすれば“夢物語”のように受け取られがちです。宇宙業界で実際に進行しているトレンドを知ることが、宇宙経済圏を次の段階に進めるための第一歩となるでしょう。
おかだ・みつのぶ◎1973年生まれ。東京大学農学部卒。パデュー大学MBA修了。大蔵省(現財務省)主計局、マッキンゼー・アンド・カンパニー等を経て、2013年にアストロスケールを創業。代表取締役を務める。