社会問題を解くカギは「心と身体の健康」にあり

FiNC代表取締役社長、溝口勇児(写真=アーウィン・ウォン)

「Wellness Award」を主催したFiNCの溝口勇児は、トレーナー出身という異色の経歴を持つ起業家だ。溝口は事業を通して、どのような社会を目指すのか─。


働く人の心と身体の問題が、これほど社会的に大きな話題となった時代が、かつてあっただろうか。過重労働や過労死、高齢化と生産年齢人口の減少、膨張を続ける医療費。それらの問題のすべてが、「健康」と大きく関係している。逆に言えば、すべてを解くカギは「心と身体の健康」にある。

FiNCの溝口勇児代表取締役社長CEOは、2012年からモバイル端末を活用した予防・健康増進サポートサービスの提供を開始した。ミッションは「人と組織の新しいスタンダードを創る」。今回の「Wellness Award」では、その体現者・貢献者である個人や企業、団体を選んだ。

では、溝口の言う「新しいスタンダード」とはどのようなことなのだろうか。それには4つの要素があるという。

ひとつは「ウェルネス経営」だ。企業にとって最も大切な経営資源は従業員であると捉え、その心と身体の健康増進に全社的に取り組む経営姿勢のことをいう。いまやプロアスリートの世界でも、組織やチームがサポートするのが当たり前の時代。こうした流れは企業にも及び、特に欧米でその傾向が顕著になっている。溝口は言う。

「情報化が進んだ社会では差別化が図りにくくなっているため、商品そのものよりも、それを生み出す『組織の力』が企業の強さにつながります。そう考えたときに、従業員の心身の健康に本気で向き合うことは当たり前になっていくはずです」

2つ目は「定年の見直し」だ。これまで労働者は年齢でひとくくりにされ、一定年齢に達すると働きたい人、働ける人であっても、いったん会社を辞めなければならなかった。だが、現在はテクノロジーが進み、日々のライフログや健康診断のデータなどから個々の健康状態を把握しやすくなっている。こうしたテクノロジーを活用すれば、「年齢」に代わる指標を作ることもできる。「末永く働きたいと考える人が、健康に投資することで長く活躍できる社会になれば、現在の日本の停滞に一石を投じ、労働人口の減少への対策にもなるはずです」

3つ目は「女性の活躍」を推進すること。女性が不安なく働ける社会作りは、日本では非常に遅れている。その実現には社会や企業による後押しが欠かせない。具体的には子供が生まれても働きやすい環境を作り、働き方の多様性を許容するカルチャーや制度を作ること。これは、人口減少社会に備えるためにも不可欠だ。

4つ目は、企業で働く従業員が「自分で心と身体のメンテナンスができる」ことが当たり前の社会を作ること。健康増進のための取り組みは、企業、組織まかせでは成り立たない。どれほど手厚いサポートがあっても、各個人の自己管理なしに、心身の健康は保てないのだ。

長寿国として知られ、国民皆保険制度で世界的に評価される日本。高齢化が進行する中で、いま問われるのは本質的な「心と身体の健康」に取り組む姿勢だ。

「今回のWellness Awardを通じて、そうした取り組みの重要さを多くの方に知ってほしいですね」


溝口勇児(みぞぐち・ゆうじ)◎1984年生まれ。高校在学中からトレーナーとして活動。延べ100人を超えるトップアスリートや著名人のからだ作りに携わる。コンサルタントとして数多の新規事業の立ち上げや、企業の再建を担う。2012年4月にFiNCを設立。代表取締役社長。

文=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN No.30 2017年1月号(2016/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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