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2017.01.18 07:00

ハリウッドから華麗なる転身、「彼ら」が敏腕投資家になれた理由


今や他人の資金を運用するという“新しいセレブ投資家”となったカッチャー。それを可能にしているのは、Aグレードの圧倒的な実績だ。エアビーアンドビーへ出資した250万ドルの現在の価値は、約9,000万ドル。ウーバーへの合計50万ドルを投資で取得した株式の総額は、現在6,000万ドルを超える。
 
ウェブベースの電話サービス「ウーマ」やウーバーの航空機版アプリ「ブラックジェット」への投資など、失敗も多数あったが、ベンチャー投資もハリウッド同様に“ヒット作品”がものをいう世界。ウーバーとエアビーアンドビーの大当たりを除いても、他の投資の成功でリターン実績は堅実な3.3倍を維持している。

“有名人”という立場は、上手に使えば時に「スマートマネー」並みの威力を発揮する。ウーバーの成長を妨げる規制案をニューヨーク市が発表した時、カッチャーはソーシャルメディアを駆使してビル・デブラシオ市長を非難し、撤回へと追い込んだ。オセアリーも投資先のモバイルアプリ「フリップボード」を、マドンナら自分の顧客アーティストに公の場で使わせたことがある。この投資先との個人的で親密な距離感こそ、2人に投資話が絶えず持ち込まれる理由でもある。

「僕らのポートフォリオに入っているすべてのスタートアップには、プライベートの番号を渡してるよ。24時間いつでも、どんなことでも電話できるようにね」

カッチャーとオセアリーは、今度は米メディア大手のリバティ・メディアから預かった1億ドルを運用するため、新たに「サウンド・ベンチャーズ」を立ち上げた。リバティ・メディアが大型投資を拒否する権限を持つものの、2人は一般的な手数料と成功報酬に加え、実績に応じたボーナスを受け取る契約だ。

サウンド・ベンチャーズは2人にとって、大きなステップアップ。より多額で、しかも他人の資金を扱ううえに、今回はバークルが不参加なのだ。どうやら長年、上司を持たずにやってきたバークルは、他人に指図されるのを嫌ったようである。
 
リバティ・メディアCEOのグレッグ・マッフェイは、大手ベンチャー・キャピタルとは違う2人の“独自の着眼点”に惹かれたという。その好例が、地方債を扱うクラウドファンディングのスタートアップ「ネイバリー」への投資だ。同社のCEOジェイス・ウィルソンも2人について「エンターテインメントだけでも、メディアだけでもありません。2人は“世界中の人々がつながる”という独自の世界観で物事を見ています」と語っている。
 
サウンド・ベンチャーズの戦略は、地方債のような“地味な分野”に集中すること。既に人事管理の自動化や地方財政の透明化などに投資している。今後数年で合計60〜70社に投資するつもりだが、追加出資を受けて、さらに投資規模を拡大する可能性さえあるという。

『チャーリー・シーンのハーパー★ボーイズ』の最終シーズンへの出演で2,000万ドル稼いだカッチャーと、U2とマドンナの直近のツアーで1,500万ドルを稼いだオセアリー。本業で多額の収入がある2人にとって、ベンチャー投資は稼ぐ手段ではない。飽くなき情熱の対象なのだ。

「1ドルも儲からなくても、実際に問題を解決したり、素晴らしい人たちを支援することで、世界に意味ある変化をもたらせられればいい。リターンなんて、その過程で出る排気ガスみたいなものだよ」とカッチャーは言う。いかにもシリコンバレーのベテランらしい、力強い言葉だ。

アシュトン・カッチャー◎1978年生まれ。アイオワ大学中退。『ザット’70sショー』等に、俳優として出演。2011年にAグレード・インベストメンツ、2016年にサウンド・ベンチャーズを共同創業し、現在に至る。

ガイ・オセアリー◎1972年生まれ。マーヴェリック・レコーズCEO、マドンナやU2のマネージャーを歴任。2011年にAグレード・インベストメンツ、2016年にサウンド・ベンチャーズを共同創業し、現在に至る。

ザック・オマリー・グリーンバーグ = 文 木村理恵 = 翻訳 山本隆太郎 = 編集

この記事は 「Forbes JAPAN No.30 2017年1月号(2016/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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