高野:近年、環境、社会、ガバナンスに配慮している企業に投資するESG投資も広く知られるようになりました。企業や社会全体が良くなっていかなければ、資本主義市場が発展していかない、という問題意識から生まれた考え方です。
水野:GPIFもアセットオーナーとして、ESG投資を推進する国連の責任投資原則に賛同する立場を明らかにしています。以前、この原則の産みの親と言われるコフィ・アナン元国際連合事務総長と議論をしたとき「日本企業、日本の投資家が環境や社会の問題に対して無頓着なのはなぜか」と聞かれました。私はそんなはずはないだろうと思いました。
しかし、実際に日本に帰国してみるとGPIFをはじめ、日本の投資家が、ESGという世界的なムーブメントに参加できていないことが分かりました。これでは世界からはコフィが言ったとおりに見えてしまうでしょう。
なぜこのようなズレが生じるのか。私は次のような仮説を持っています。つまり、ESGの概念自体が日本人の意識や日本社会の慣習にもともと根付いていたからではないか。慣習としてあったがために、あえて明文化することに抵抗を感じてしまっているのではないか。このため異なる文化の人に説明できず理解されにくいように思うのです。
コーポレートガバナンスも同様です。日本企業が、欧米式のコーポレートガバナンスのとは違うスタイルの方がよいと言うなら、あえてコードに従わずに説明してほしい。日本に一番必要なのは価値観の変革ではなく、明文化と説明力ではないでしょうか。
一方、誤解に基づいて海外から日本のコーポレートガバナンスが緩いと思われているのなら、日本最大の機関投資家であるGPIFとしては、世界に対して日本社会や日本企業のあり方に理解を求める必要があります。
運用会社には企業とじっくり話し合い、それを私たちにも伝えて欲しい。日本企業の実態が理解されれば、日本株の評価も高まるはず。そうすればアセットオーナーであるGPIFも儲かるし、長期的に年金を確保できる。まさにWin-Winの関係を築くことができるのです。
ただ、スチュワードシップコードやコーポレートガバナンスコードの「コード」は、関係者に最低限求められるものです。私は関係者がスチュワードシップやコーポレートガバナンスのクオリティをさらに高める努力をして、企業や運用会社は差別化を図っていく必要があるのではないかと思います。
佐護:最近は、経営者と投資家の対話を「エンゲージメント」と柔らかい言葉で表現しますが、持続可能な資本主義の一端を担う投資家は、株主という立場から、発行体である経営者に言うべきことをはっきり伝える必要があるはず。そう考えれば、スチュワードシップは生まれるべくして生まれた考え方だと言えますよね。