ビジネス

2016.12.28 11:00

【鼎談1万字!】日本のマネーマスター3人が語る「資産大国ニッポン」への道


佐護:日本の資産運用業界の仕組みが時代のニーズに即していないという問題があると考えています。たとえば、金融機関における報酬制度ひとつを見ても、運用とは何か、金融市場に携わる人間はどのようなマインドで働くべきなのかが、きちんと理解されないまま設計されている気がします。こういった報酬制度は、運用成績が低迷する一因となっているはずです。
 
あるいは個人投資家を対象にした資産運用業界もそうです。個人投資家の利益を考えたときに必要なファンクションが整備されていない。運用会社と販売会社が同じ金融機関グループに属していることも多いという現状を考えた時に、私が日本の資産運用業界でもっとも足りないと感じるのが、独立系のファイナンシャルアドバイザーです。

同時に独立系のファイナンシャルアドバイザーに正当な手数料を支払う文化も根付いていません。つまり日本には、個人投資家のことを第一に思って、何に投資すべきかを考える専門家が不足しています。

日本は経済発展を遂げてこれほどの債権国になり、お金が余っている状態です。それをどう運用すべきか、国レベルで考える必要があると思います。

水野:運用のノウハウでは国内にも世界で通用する人材が数多くいると思っています。「外資系並みの給料を払わないと、よい人材は来ない」と言う人がよくいますが、それは違うと思います。
 
ただし、資産運用ビジネスのプロという観点で見たときはどうでしょうか? 顧客の立場にいる人々と意見交換をすると、外資系運用会社の方が資産運用のクオリティが高いと感じている人が多いように思います。

でもそれは、運用ノウハウの問題ではなくて、資産運用ビジネスのノウハウなのではないか。日本でも資産運用ビジネスのプロを育てる必要性があると私は感じています。

ただ、私は日系外資系を問わず資産運用業界は投資先のビジネスモデルやプライシングには真剣ですが、他の業界に比べて自らのビジネスモデルやサービスのプライシングについて無頓着なのではないかと感じています。例えば運用手数料体系についても、あまりにも旧態依然としていて、工夫が足りないように思うのです。

高野:個人投資家を取り巻く環境が、海外とは違いますよね。水野さんはどうお考えですか。

水野:日本の資産運用を発展させるためには、実務家だけでは足りません。運用理論の学術的な研究が進む必要があると考えています。残念ながら米国などに比べて、日本にはこの分野の専門家が少ないし、若手の研究者も増えていないのが実態です。GPIFでは、関係省庁とも協力して、そのような若手の学術研究を奨励するような制度を作りたいと考えています。
 
一方で、個人投資家については、学校教育レベルから考えていくべきだと思います。日本には株や投資に対する不信感がどうしても残っており、資産運用に対して“錬金術”のような印象を抱いている人が多いのが現実です。日本でも金融に対する正しい知識を持ってもらう必要がある。他の先進諸国では、株式は安定的な長期投資に向いた資産というコンセンサスができているわけですから。
 
では、日本と先進諸国との差はどこにあるのか? これは、経済成長しているか否かです。緩やかでも経済が右肩上がりの状態なら、株価は上下しながらも上昇していく。これに対し、日本は経済が右肩上がりとは言えない状況の中で株価が上下している。「株式なんて上がれば必ず下がる」という状況を生んでいるわけです。

高野:日本の国内市場を、たとえ緩やかであっても右肩上がりにするにはどうしたらよいのでしょうか。水野さんはどのような形で、国内市場を育てようとされていますか?

水野:GPIFは、企業で働く従業員と事業主から年金保険料の一部を預かり、その資金の運用機関を通じて、また企業に投資するという特殊なポジションにいます。この年金のサステナビリティを高めるためにも、企業と運用機関との建設的な対話によって、中長期的に日本企業、そして日本経済の持続的な成長を促し、それによって投資リターンが向上するwin-winの関係が必要なのです。
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構成=山川徹 写真=若原瑞昌

この記事は 「Forbes JAPAN No.31 2017年2月号(2016/12/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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