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2016.12.28 11:00

【鼎談1万字!】日本のマネーマスター3人が語る「資産大国ニッポン」への道


高野:2008年のリーマンショックから8年経ちました。過剰流動性の提供、大きな政府、新興国のハンドオーバー、金融規制の強化——の4つが、金融における新たなフレームワークとして確立しました。ただ、8年経った今も、そこに止まっているのが現状です。今後、何かが変わるとしたら、どのように変化すると思いますか?

水野:私は現在の市場は、量的金融緩和政策(QE)の影響で、“フカフカのクッションが敷かれている状態”だと感じています。常にポジティブなニュースを求めながら、クッションをはぎ取られることに怯えているとも言えるでしょう。
 
GPIFのCIOとしては、量的金融緩和政策はずっと続いて欲しいのですが、1人のグローバルシチズンとしてこの状態をサステナブルだとは思えませんし、次世代に申し訳ないとすら思っています。

資産運用に携わる者は、常にショックに備える必要があります。投資家として私は「楽観的すぎて失敗するよりは、悲観的すぎて失敗した方がましである」という信条を持っており、常にリスクが潜んでいるのではないかと考えています。

高野:さすが、GPIFのCIOですね(笑)。佐護さんは今後の変化をどのように見ていますか?

佐護:いくつかの中央銀行によるマイナス金利導入によって、私たちは金融政策の限界を目の当たりにしました。リーマンショック以降、内需を拡大、刺激していくという名目で各国の中央銀行が金融緩和を競い合うように実施してきました。

ただ途中からは金融緩和の本当の目的は、自国通貨を安い方に誘導する、通貨安競争に変わってしまったと言ってもよいのではないでしょうか。これ以上、金融緩和しても内需拡大の観点からは意味がないと分かっていたのに、誰もやめることができなかったわけですから。
 
そうした過度の金融政策が巡り巡って社会の歪みを生み、今回のトランプ大統領の誕生にも繋がったのだと思います。

高野:2016年で最大のニュースといえば、佐護さんがおっしゃったようにアメリカ大統領選でドナルド・トランプが勝ったことです。この影響を、どうお考えですか? 17年はどうなっていくのでしょうか?
 
佐護:こと金融市場に関して言えば、現在のトランプへの期待感は、“ハネムーン”状態を通り越した“シュガーハイ”状態だと分析する人もいます。確かに短期的には、彼が推し進める減税やインフラ投資でアメリカの景気は改善するはずです。そしてインフレ率が上がり、金利も上昇し、円安もしくはドル高になるでしょう。

彼が訴えたグローバリゼーションの否定すなわち保護貿易主義や排他主義もそういったマーケットの動きを助長するでしょう。その結果、日本の金融機関も輸出企業もその恩恵を受けることが期待できます。
 
問題はそこから先がどうなるのか? 私は大統領と議会が同じ共和党で固められてねじれ現象が解消したアメリカという国が、どこまでそのメリットを享受できるかは、トランプ色と共和党色のどちらが色濃くあらわれるかによると見ています。

大統領選挙の中でトランプが訴えた政策には、トランプ特有の政策とともに彼独自のスタイルで表現されただけで実はいかにも共和党らしい政策の両方が含まれています。
 
トランプが本当に保護貿易主義や排他主義を推し進めた場合には、それらは長期的には様々な問題を生むでしょう。
 
一方で、共和党色が強く出れば、多くの人が期待しているような持続可能な経済成長を実現できる可能性があるのではないかと思います。貿易政策その他でのトランプの過激な主張は相手方から有利な条件を引き出すための彼一流の交渉術に過ぎず、減税とインフラ投資、金融やエネルギー分野での規制緩和が着実に推し進められることで経済成長が加速する、というのがベストシナリオなんでしょうね。
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構成=山川徹 写真=若原瑞昌

この記事は 「Forbes JAPAN No.31 2017年2月号(2016/12/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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