水野:外資系金融機関と日系金融機関という以前に、民間企業か、公的な機関かという違いが大きいと思います。
民間の金融機関は、収益を上げて株主に満足してもらうのが目的です。一方、我々GPIFは国民のみなさまの年金を運用する目的で作られた組織ですから、収益を上げるだけではなく、公平性や透明性が、民間の金融機関とは違う水準で要求されます。
そういう環境では、何かが起きたときに説明責任をどう果たすか、そのためのプロセスを重視する傾向が強くなってしまうのです。年金運用を行う海外の公的機関のCEOやCIOと会うと、どこも同じような問題を抱えていると聞きます。公的機関が資産運用という極めて資本主義的な活動を行ううえで、避けては通れない問題なのかもしれません。
佐護:確かにプロセスを重視する傾向は強いですね。
ゆうちょ銀行は06年に民営化されてから、民間企業としてこれまでに着実に積み重ねてきた豊富な経験と実績があります。にもかかわらず、銀行として手探りで事業を模索し始めた10年前に作ったノウハウが見直されることなく、まるで新人がやるように1から手順を踏んでいるケースもありました。そういうところにプロセスを重視しすぎる組織の効率の悪さを感じることはあります。
その半面、社員の事務処理能力は驚くほど高い。例えば何か質問をすると、すべてを網羅したきめ細やかで完璧な資料とともに回答してくれる。これは外資系企業にはちょっと真似ができないレベルです。ただし、それが必ずしも良いとは言えない時もあります。あらゆるプロセスや準備に手間を惜しまずに時間をかけてしまうせいで、肝心の意思決定が遅くなってしまうという弊害があるからです。
とはいえ、それが決定的なボトルネックになっているわけではありません。極めて効率の良い組織が1週間で完了することに、ゆうちょ銀行では仮に1カ月かかるとしても、1カ月待てばいい。時間がかかったとしても最終的にゴールには到達できるわけですから、いつまでたっても誰も意思決定をせず物事が前に進まない組織とは決定的に異なります。
そして徐々に組織を効率化させて、1カ月かかった作業を3週間、2週間でできるようにしていく。こうした作業を積み重ねる中で、社員たちにも効率化、迅速化の意識が少しずつ浸透してきたと感じています。時間の経過とともに、組織のカルチャーが変化していく実感がありますね。
水野:佐護さんは大学院を卒業されてからずっと外資系金融機関にいらっしゃったので、日系企業、公的機関のカルチャーとのギャップは特に大きいでしょうね。私自身は新卒で日系の信託銀行に入社しましたので、GPIFに来たときよりも、信託銀行からロンドンのファンドに移ったときの衝撃の方がよほど大きかったです。
カルチャーという面で最も驚いたのは、外資系ファンドの組織のフラットさです。会議では立場に関係なく、誰もが忌憚なく意見を述べる。日本のように事前に根回しして落としどころを探るようなことは、普通はしません。日本人的な感覚からするとケンカに見えるほどの激しさで意見を戦わせるけど、会議が終わったらケロっとしている。
外資系のやり方すべてが正しいとは思っていませんが、フラットな組織の方が、意思決定のクオリティが上がると考えています。