高野:我々3人は同時期に外資系金融機関で働いていました。それぞれ企業や立場の違いはありましたが、世界の金融市場に身を置きながら、互いに刺激し合ってきました。
佐護さんはゴールドマン・サックス証券から、ゆうちょ銀行の副社長に転じ、水野さんは英コラーキャピタルからGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)に移って理事兼CIO (チーフインベストメントオフィサー) に就任されました。ちなみに私は、27年の金融キャリアを経て2年前から弊誌の編集長。お二人より一足先に金融界から引退させていただきました。外の世界はいいですよ(笑)。
さて、お二人が現職に移ったきっかけは何だったのでしょうか。キャリアを積んで、それを社会に還元しようとお考えになったのでしょうか。
水野:私もコラーキャピタルの仕事を最後に運用業界から“引退”するつもりでしたし、CIOの打診をいただいた時にも「運用のプロとして私よりも相応しい方はいくらでもいますよ」と回答しました。
しかしながらGPIFの運用委員会をお手伝いする中で、GPIFが一流の運用機関に変わるためには誰かが最初の土木工事をやる必要があると気づき、それならお役に立てるかもしれないと思って引き受けることにしました。
佐護:自分の経験やノウハウを役立てることで社会に還元したいという気持ちは漠然とはありましたが、社会に還元するために今の仕事を選んだわけではありません。ゆうちょ銀行での仕事は、うまくやれば結果的には社会に還元することにつながるでしょう。
でも、この仕事に興味を持ったのはそこではない。仕事それ自体に非常に大きな意義を感じたからです。私にとっては、自分がそこでどれだけの違いを生み出せるかというのが、仕事をする上での大きなモチベーションなのです。
確かに、ゴールドマン・サックス証券で20年以上働いて、金融業界でのキャリアには非常に満足していました。だから、水野さんと同じように、次は金融じゃないことをやってみようと考えていた。それでもまた金融に戻ってきたのは、ずっと金融業界に携わってきた中で、強い問題意識を持っていたことがいくつもあったからです。
大きな機関投資家の中に入って、自らそれを変えることができれば、少なくとも私が問題と認識していた金融業界の課題をもしかしたら解決できるのではないか。その潜在能力や影響力がゆうちょ銀行にはあると考えています。
高野:非常に強い動機で今の仕事を引き受けられたわけですが、実際に外資系金融機関から公的な機関投資家に移ってみてのご感想をお聞かせください。
佐護:私は大学院卒業後にゴールドマン・サックス証券に入社し、一貫して市場を相手にした業務に携わってきました。資産運用をする立場から見た、ゆうちょ銀行の最大の魅力は、200兆円もの資金を運用できるということです。これは、この上ない魅力です。
ゆうちょ銀行の巨大な資金の運用を高度化することによって、日本の資本市場を育てたいという思いもありましたし、公的な色彩が濃い分だけ機関投資家としての課題や変革の余地が大きく、やるべきことが山積みなところも仕事として面白いと思いました。
ゆうちょ銀行に移って、まず感じたのは、外資系の金融機関に比べて収益性へのこだわりが希薄だということです。ゴールドマン・サックスでは常に収益性を問われますし、それによって仕事の優先順位も決まる。一方で、公的なバックグラウンドを持った組織であるゆうちょ銀行では、「儲ける」「儲かる事業に時間と労力を割く」という発想になりにくいのかもしれません。