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2016.12.28 11:00

【鼎談1万字!】日本のマネーマスター3人が語る「資産大国ニッポン」への道


高野外資系と日系、さらに公的機関となると、組織もカルチャーも違いますよね。公的な機関投資家として、お二人はどのような組織づくりをされていますか?

水野:GPIFは、行政組織と資産運用組織という2つの側面を持った組織です。従来は行政部門と運用部門が一体化していました。その結果、運用担当者が、行政手続きのための事務作業に忙殺されるといった弊害がありました。

現在は、行政手続きを専門で行う部署を運用部門から独立させて、運用担当者が運用業務に集中できる環境作りを進めているところです。後はとにかくみんなが自由に意見を言える、よい意味で互いにお節介な組織文化を目指しています。
 
佐護ゆうちょ銀行は民間企業ですから、組織については前述の通り効率化、迅速化を目指すとともに、失敗を恐れない風土を育てたいと考えています。運用の世界にリスクはつきもの。リスクを恐れていたのでは、投資はできません。そうした観点から、賃金体系も一部見直し、成果型報酬制度を導入しました。

失敗したらキャリアに傷がつき、成功しても報酬は固定されたままで変わらないというのでは、まともな人は誰もリスクを取りたがりません。そこで、成果に見合った報酬を支払うことにしました。

高野社員の皆さんも、従来と勝手が違って戸惑うことがあったのではないでしょうか。何かご苦労された点はありますか?

佐護実は、特に大変だったと感じた経験はありません。ここまで驚くほど順調に進んできたと感じています。もちろん私が言うことに戸惑う社員もいたでしょうが「最終着地点がここにあって、そのためにはこういうことをやるんだ」と明確なビジョンさえ示せば、納得してくれます。

ゆうちょ銀行はこの15年間で、大きな変化を経験し続けてきました。「郵政省」から2001年に「郵政事業庁」になり、03年に「日本郵政公社」となったのちに06年に「日本郵政」として民営化。そして15年に東証1部上場しました。当社はこの15年間、組織が常に変革を迫られた。その分、変化することに慣れているとも言えます。
 
とはいえ、頭では納得していたとしても、身体は長年続けてきたやり方を記憶しているので、すぐに変えるのは難しい。特に大きな組織のカルチャーが変わるのには5年、10年という歳月が必要です。時間がかかるのは、当初から覚悟のうえで取り組んでいます。

水野:私は佐護さんと違って気が短い(笑)ので職員は大変だと思いますが、信じられないほど頑張ってついてきてくれたと思います。

高野:ゆうちょ銀行は一部に成果型報酬制度を導入しましたが、GPIFはいかがですか?

水野:GPIFでも成果型報酬制度を取り入れてはいますが、外資系金融機関などと比べたら、ないも同然です。
 
国民の皆様の年金を運用しているGPIFは、賃金上昇率に対する実質的な運用利回り1.7%を、最も少ないリスクで確保するのがミッションです。運用担当者のインセンティブを高めて「恐れずにリスクをとって、もっと儲けろ」とは言えません。

GPIFの場合は「公のために働いている、つまり公務員である」というメンタリティは絶対に必要です。ただし、ここでいう「公務員のメンタリティ」とは、官僚的であると言う意味ではありません。

私の考える「他人のお金を預かってはいけないタイプの人」というのがあって、それは自分の間違いを認められない人、自らがリスクをとることのできない人です。他人のお金ならリスクを取れるけれども、自分のお金では取れない――というサラリーマン投資家ではいけません。

とはいえ、GPIFの職員は自己資金の運用にも制限がありますので、キャリアのリスクは取ってもらうことにしています。私が就任してから採用された運用専門職員は、皆さん最長3年の有期契約で働いてもらっています。
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構成=山川徹 写真=若原瑞昌

この記事は 「Forbes JAPAN No.31 2017年2月号(2016/12/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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