ビジネス

2016.12.02 08:00

クラウドファンディングの元祖、キックスターターが起こす「アイデアの市民革命」


あまり知られていないが、キックスターターには他のクラウドファンディングのサイトと大きく異なる点がある。それは、掲載できるプロジェクトが、デザインや映像、ゲーム、音楽、出版、テクノロジーなど、いわゆる「クリエイティブ」な分野に限られていることだ。営利目的のビジネスの場合、そこに何らかの独創性が認められなければ、掲載にはいたらない。

もっとも、ハードウェア企業の新製品開発やレストランの開業など、どこまでが「クリエイティブ」といえるか、線引きが微妙なケースもある。これに関して、ヤンシーは「ビジョンをもち、世界とシェアできるモノを作りたい人を僕たちとしては支援したい。だからなるべく広い意味で言葉の定義を捉えています」と答える。それでも毎日、判断が分かれるプロジェクトが数十件あり、専門のチームが精査しているという。

ジャンルを「クリエイティブ」に限定する理由としては、3人の共同創業者がもともとクリエイティブな世界で活動していたことが大きい。会長のペリー・チェンはミュージシャン、顧問のチャールズ・アドラーはグラフィックデザイナー、そしてCEOのヤンシーは音楽ジャーナリストだ。

だがもう一つ、「クリエイティブ」にあえてこだわりたい理由もある。ヤンシーはこう語る。

「クリエイティブな世界は、正当な扱いを受けていません。なぜなら、基本的にほかの人たちを儲けさせられないからです。投資家は普通、不動産であれ、ビジネスであれ、芸術作品であれ、何らかの“対価”を求めて出資します。でもアートやカルチャーは本来、美しさを伝えたり、新たな価値観に気づかせてくれたり、自分の世界観を形作ったりするものであって、そうした枠組みには当てはまらない。『誰かを儲けさせる』という目的は、そもそもの存在意義として低いんです。では今の社会でアートやカルチャーを存在させるためにどうすればいいかというと、それ自身のあり方を捻じ曲げて、儲かる仕組みに変えるしかない。でもそれって問題だし、とても残念なこと。クリエイターたちに『儲ける』という考えを捨てさせることができたら、ものすごく多様で、面白い文化を生み出せるんです」

どんなに独創的で優れたアイデアであっても、収益化が見込めなければあっさり切り捨てられていく。そんな現状を変えたい、とヤンシーは語る。

「歴史的に見れば、いろんな意味でクリエイターになるのに今より良い時代はなかったでしょう。スマホに高機能のカメラが搭載され、YouTubeでいつでも作品を発表でき、誰でもクリエイティブになろうと思えばなれる。でも少なくとも西洋社会で支配的な哲学は『お金』です。お金というのはクリエイターのマインドセット(物の見方)を腐敗させ、安全で退屈な決定を促します。そういう世界はあまりエキサイティングじゃありません」
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文=増谷 康 写真=マルコム・ブラウン

この記事は 「Forbes JAPAN No.29 2016年12月号(2016/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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