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フリーランスのライター・編集者

キックスターターの共同創業者でCEOのヤンシー・ストリクラー

せっかく素晴らしいアイデアを思いついても、それを実現する手段がないー。そんな悩みを抱える人たちを支援するサイトが人気を集めている。創作活動の常識を根底から覆したスタートアップをニューヨークに訪ねた。

「クレイジーだ。こんなものにお金を出す人なんているわけがない」

フレッド・ベネンソン(32)は、自分でも冗談が過ぎていると思った。

文豪メルヴィルの名作『白鯨(MobyDick)』を、一冊丸ごと「絵文字」に翻訳したらどうなるかー。自称“絵文字オタク”のフレッドが友人と遊び心から始めたプロジェクトだった。だが、ただでさえ「難解」で知られる大作である。一冊仕上げるとなると相当な仕事量になるし、誰かに手伝ってもらうにしてもお金がかかる。そこで知人に相談すると、「クラウドファンディングのサイトに掲載してみてはどうか」。

クラウドファンディングとは、ネットを使って不特定多数の人から資金を調達する仕組みのこと。半信半疑でプロジェクトを登録してみたら、案の定、ネット上では「ふざけている」「ひどいアイデアだ」などと批判的なコメントが飛び交った。「それで逆に火がついたんです。なにがなんでも作ってやる、と」

30日間のキャンペーンで、83人の支援者から目標額を上回る3,676ドル(約37万円)が集まった。このお金を使って、クラウドソーシングで翻訳への協力を呼びかけた結果、800人以上のユーザーが参加し、9カ月かけて翻訳が完成。こうして、フレッドが編集人を務めた『Emoji Dick』は、アメリカ議会図書館に所蔵された最初の「絵文字の翻訳書」となった。

フレッドが利用したサイトとは、クラウドファンディングの元祖として知られる「キックスターター」。フレッド自身、この実験的なプロジェクトを進める傍ら、同社のビジョンや可能性に惹かれ、3番目の社員となった。6年間にわたって同社のデータチームを率い、今年2月に会社を去った彼(「やりたいことはほぼすべてやりきったので満足している」のだそうだ)は今、こう振り返る。

「普通の出版社にこの本の企画をもっていっても、きっと断られていたと思う。キックスターターのよい点は、本当にクレイジーな夢を見られて、ほかにも興味をもっている人がいるかどうかわかることです」

このように、かつては埋もれていたに違いないアイデアが、キックスターターという新たなプラットフォーム(サービスを仲介する場)の登場によって、次々と独創的なプロダクトやサービス、あるいは作品へと姿を変え、世の中に送り出されている。

2009年の同社創業以来、資金調達に成功したプロジェクトの数は11万件以上で、その総額は26億ドルに上る。同社以外にもクラウドファンディング企業は多数あるが、それらすべてのサービスの支援額を足してもキックスターター1社に届かないという話もあるほどだ。

また米ペンシルベニア大学が今年の夏に発表した調査結果によると、同サイトを通して設立された企業・非営利団体の数は8,800に上り、30万人以上の雇用が生み出されたという(うち約3万人が正規雇用)。関連産業への経済効果は累計53億ドルに上る、とも試算している。

まさに一企業の枠に収まらない広範な影響を社会にもたらしているキックスターター。同社はいかにしてアイデアの世界に革命を起こしたのか。それを探るつもりで今回取材を始めたが、すぐにある事実に気づかされることになる。ほかでもないキックスターター自身が、とてつもなく“クリエイティブな企業”であるということにー。

文=増谷 康 写真=マルコム・ブラウン

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