「フィンテック」が日本の金融業界に革命をもたらそうとしている。フィンテックの定義は、ここでは「金融サービス(FINance)にテクノロジー(TECHnology)の力を利用することで、よりよい金融サービスを提供すること」と定義しよう。サービスの提供者は、既存の金融機関である必要はなく、むしろ創業まもないIT(情報技術)企業であることが多い。
フィンテックが生まれ、育つためには、(1)革新的なアイデアを持って創業リスクをとる起業家、(2)その起業家にリスクをとって投資する投資家、(3)芽が出始めた創業企業を育てる競争環境の維持─などが重要である。
このフィンテックには世界中が投資を行っている。「フィンテック事業を手掛ける企業への投資が急増している。2016年は世界で240億ドル(2兆4,000億円強)と過去最高を更新する見通しだ」(『日本経済新聞』16年9月8日)。
しかしながら、日本での投資は芳しくない。日本でのフィンテックへの投資額は、アメリカのわずか0.5%にすぎない。表で示したように、中国、インドにも大きく遅れをとっている。投資ファンドはできても、投資対象となるような企業が少ないようだ。このような状況では、日本の金融サービスが世界に遅れをとることは明らかだ。
ところで、フィンテックが“革命的変化をもたらす”と言われている割りには、革命後の姿がよくわからない。テクノロジーのおかげで、送金・決済が迅速かつ安価になる、仮想通貨が広く普及する、などは、すでに起きつつある変化であり、さらに進化するだろう。
どのような会社が創業されたかを、分野別時系列で示す図を見ると、(1)銀行サービス、(2)決済、(3)融資、(4)送金、(5)会計、(6)投資・資産管理、(7)仮想通貨─の各分野で、起業が相次いでいる。日本の企業も多く含まれている。これらの会社を眺めていると、未来が見えてくるだろうか。
おそらく小口の客にとっての一番の人気は、送金・決済サービスであろう。クレジットカード、SuicaやPASMOの交通系電子マネー、おサイフケータイ、などを使い分ければ、現在でも、ほとんど現金を使わない生活ができているはずだ。これがフィンテックになれば、その効率的な生活の範囲が広がると予想される。外国の取引相手への支払も、Bitcoinや銀行内仮想通貨を使えば、手数料は最低限になるはずだ。
投資・資産管理では、家計簿に代わるソフトを内蔵すれば、スマートフォンで支払をするごとに自動的に家計簿が作られることも可能だ。投資相談は、年収、年齢、不動産の保有の有無、などいくつかの質問に答えれば、人型ロボットが、画面の向こう側から、自動的に投資アドバイスをしてくれるということになる。フィナンシャル・アドバイザーは不要になる。