2013年、コニカミノルタの役員クラスが集まり、トランスフォーメーション(事業変革)をテーマに話し合いを続けていた。その席に大手グローバルIT企業から前年転職してきたばかりの、市村雄二(現執行役事業開発本部長)もいた。
市村は当時、ICT・サービス事業を統括する立場にあった。外部から来た人材が事業領域の8割を占める情報機器関連の部門トップに立つこと自体、異例のことだ。市村を口説いて引き抜いたのは現コニカミノルタ代表執行役社長である山名昌衛と、現在、国内子会社でワークフロー変革のソリューション提供を推進するコニカミノルタジャパン社長を務める原口淳の2人だった。
グループの連結売上高は1兆円近くになっていた。世界約150カ国で事業を展開し、4万人超の従業員を抱える巨大企業グループが継続的にイノベーションを起こしていくには、企業買収によるシナジーを模索するだけでは物足りない。組織全体を変革に向けて前進させる、もう1つのエンジンが必要だー。
議論が佳境を迎えた頃、市村が提案した。「全世界にビジネスイノベーションセンター(BIC)をつくりましょう」
成長戦略の中核を担う組織として、顧客ニーズを深く理解し最大価値を世界に送り出すことをミッションとした、新規事業開発のための拠点。2カ月半で詳細を詰めた彼は、取締役会の承認が下りると直ちに動き始めた。
「シリコンバレーは外せない。ヨーロッパはもともとコニカミノルタのお客さんも多いですし、ITサービスということを考えるとロンドンは重要です。社会制度を含めたプラットフォームという意味ではシンガポール、それから13億人のマーケットがあるという意味では中国も無視できませんでした」
世界を日本、北米、ヨーロッパ、中国、アジア太平洋の5極に分け、東京、シリコンバレー、ロンドン、シンガポール、上海とそれぞれの主要都市に拠点を置き、一気に始動した。日本にはすでに研究開発(R&D)の拠点もあり、優秀な人材も多く揃っている。そこにわざわざBICを設けなくてもいいのではという意見も出たが、市村はこう反論した。
「BICはグループ全体をイノベーティブな組織へと変えていくためのエンジンですから、日本にこそ必要です」
既存のR&Dとはまったく違う文化をつくり上げるため、所長以下のコアメンバーは、すべて社外からスカウトすると決めた。