「北米はBtoCの経験者、ヨーロッパは社会制度や基盤整備に長けた人材、シンガポールの場合は政府も含めてメジャーなプレイヤーに人脈を持つ人という意味で、過去に4,000人くらいの部下を抱え、大企業も経験した人物を選びました」(市村)
日本に関しては、自ら事業を孵化させた経験を持ち、なおかつ「コニカミノルタにはいないタイプ」を募集した。苦労の末、ようやく見つけたのがBICジャパン所長の波木井卓だった。
「こちらに来るまでは、新規事業やM&A(合併・買収)に関してアドバイスする業務をしていました。アントレプレナーの経験はありましたが、大企業の中からイントラプレナー(社内起業家)として事業を立ち上げた経験はまだないなと思っていたところに、この話が舞い込んできた。ちょうどいい機会だと思いました」と、波木井は振り返る。
BICジャパンの所長に就任したのは14年5月。決まっていたのは、おおよその予算と人数だけだった。「1年目は人を集めて組織をつくるだけで精一杯。当時は社内の誰に何を相談したらいいのかもわからず、すべてが手探りでした」。名簿で人事担当者を見つけ、採用に必要な手続き等について質問すると、「どなたですか?」と聞かれた。用件を伝えると別の担当者に回され、回された先で「担当が違います」と言われることもあった。
「そんなことを何度か繰り返すうちに、社内の状況もおぼろげながら把握できるようになり、最終的には今いる10人のメンバーを集めることができました」。
そうして採用された一人が、秋山博だ。15年4月入社で、前職は大手半導体メーカーに勤務していた。
「私は汗っかきなので、夏場はいつも制汗シートを持ち歩いている。そう言えば世の中に口臭チェッカーはあっても、体臭チェッカーはない。作ってみたら面白いんじゃないかと思いつきました」
提案したのは、世の中にある様々なニオイを見える化する「HANA」というプロジェクトだ。BICでは、技術ありきの「テクノロジーアウト」ではなく、顧客のニーズに基づく「マーケットイン」の発想でプロジェクトがスタートする。秋山もそのような考え方に基づき、まずは、数百人にアンケート調査をすることから始めた。
「ニオイをセンシングする技術は社内にありませんでしたので、まずは自分で試作品を作りました。けれど性能が悪くて、これではユーザーの心に寄り添ったものはできないなと考えていたところ、ある展示会で、ニオイの識別に関する発表をしていた大学の先生と知り合いました」
その出会いをきっかけに、産学連携の共同研究もスタート。途中経過をプレスリリースしたところ、「空港の爆弾検知に使えないか」など想像もしていなかったニーズが数多く寄せられ、プロジェクトの幅が予想以上に広がった。現在は共同研究をさらに進めようと、2週間に一度の割合で東京と大阪を行ったり来たりする毎日だ。