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2016.08.21

スポティファイ、音楽ドキュメンタリーでネットフリックス追撃の構え

David M G / Shutterstock.com

スポティファイは8月11日、オリジナル動画のプレミア上映を行った。同社がオリジナル動画を制作するのは今回が初めて。公開された動画は、「How EDM Changed the World(エレクトロニック・ダンス・ミュージックがどのように世界を変えたか)」というタイトルの2分間の短編アニメで、音楽業界の社会的・政治的背景について紹介する内容となっている。

「How EDM Changed the World」は、スポティファイアプリに配信されるが、ユーチューブでも無料で見ることができる。これは、ライバルの「Tidal 」や「アップルミュージック」が独占配信コンテンツにより、ユーザーの囲い込みを図っているのとは対照的の動きだ。

スポティファイはこれまで、高度なデータ解析を駆使した音楽レコメンデーションを強みとしてきた。今回の動きは、ストリーミングサービスの競争が激化する中、従来の方針の見直しを迫られていることの表れだと言える。

そして、スポティファイが動画を公開して1日も経たないうちに、ネットフリックスがヒップホップをテーマにしたオリジナルのドラマシリーズ「The Get Down」のプレミア上映を行った。監督はオーストラリア人の巨匠バズ・ラーマン。舞台は1970年代のサウスブロンクスで、当時の若者たちの生き様を通じてヒップホップの誕生を描いている。

激化する「オリジナル動画」戦線

「The Get Down」の制作には、ヒップホップ界のレジェンド、ナズ(Nas)やグランドマスター・フラッシュ(Grandmaster Flash)といった著名アーティストが関わっている。オリジナルサウンドトラックは、アップルミュージック限定で配信されている。また、ラーマン監督らは70代ヒップホップの楽曲をセレクトし、アップルミュージック専用のプレイリストまで制作した。

ネットフリックスが現在配信する動画の50%以上はオリジナル作品だというが今回、同社が「The Get Down」で証明して見せたのは、動画を起点にユーザーを音楽キュレーションサービスに誘導する方が、その逆の流れよりも効果的だということだ。

スポティファイやネットフリックスは映画や音楽の世界に多大な影響を及ぼしている。ネットフリックスは毎日8,300万人ものユーザーが1億2,500万時間分のコンテンツを消費している。これは、一人のユーザーが毎日1.54時間のコンテンツを視聴していることを意味する。一方、スポティファイの有料会員数は3,000万人(総ユーザー数は1億人以上)で、モバイルとデスクトップを合わせた一日当たりの平均視聴時間は2.5時間とネットフリックスを上回る。

一方、この2社が大きく異なるのは、ユーザーに対する価値提供の考え方だ。ネットフリックスがドラマの「一気見」を流行させたのに対し、スポティファイは「ながら聴き」を普及させた。

また、ネットフリックスが高度なデータ分析を行い、「ハウス・オブ・カード」のように万人受けするコンテンツを生み出しているのに対し、スポティファイは「Release Radar」のようにパーソナライズされたプレイリストを提供するためにデータ分析を駆使している。
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編集=上田裕資

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