谷本有香(以下、谷本):9月に行われる日銀の金融政策決定会合では、「総括的な検証」を行うといわれています。これまで積極的に行われてきた黒田日銀の金融政策の功罪が問われます。
大村敬一(以下、大村):最近の状況を見ると、明らかに金融政策の限界に達したと思います。当初は異次元金融緩和が円安誘導に成功し、一時は回復を期待させたアベノミクスですが、その後はといえば、第三の矢が機能していないということを隠すために金融緩和が政権に応える形で実施されています。日銀はまさに政府のプリンターと化しているわけです。
他方、財務省にも、大量国債発行が前提ならば管理コストが低くすむので、それを容認するようなインセンティブ構造がやっぱりあります。社会福祉等移転支払増の趨勢下では、官邸と財務省と日銀の間に暗黙の了解のようなものがあったのでしょう。
谷本:今の状況を見て、アベノミクスの経済政策をどのように評価されますか?
大村:現状は赤点でしょう。インフレターゲティング政策は幻想に終わったのではないかと思いますし、第二の矢も中途半端、第三の矢は皆無です。民主党時代よりはましという意味では評価できるでしょうが…。
過去を見ていると、政権が安定するとどうもテーマがすり替えられる傾向があります。今やインフレターゲティングという大看板も下ろされそうです。2年経って2%達成できなかったら責任取りますと公約した人たちは前言を撤回。政権存立と結びついているので単独での辞任というのも難しいのでしょうが、これでよいのだろうかとは思っています。このままだと結局何もできなくて、これ以上のサプライズも期待できません。
谷本:大村先生は、安倍政権が経済優先を掲げているのに経済学に強くないとご指摘されています。
大村:白川前総裁のときは、これ以上追加緩和しても日銀当座預金にブタ積みがされるだけで効果は期待できないという悲観論が日銀内に蔓延し、緩和も政権に強いられて受動的でした。たしかに中途半端な印象はありました。
これに対して、リフレ派の人たちは、日銀当座預金にブタ積みされても、それでも積み増し続ければ、いつかは溢れて市中に流動性が流れるだろうし、そのような徹底した姿勢がインフレ期待につながると主張しました。攻撃的であるのも特徴的でした。安倍首相が経済政策論争を理解できたのかは疑問ですね。リフレ派の経済政策が簡潔・明快だったので乗っかったということかもしれません。
しかし、一番大事なのは実体経済に資金需要が出るかどうか、家計の消費意欲、企業の生産意欲があるかどうかということが基本です。そこには、もちろん日銀の役割もありますが、やはり単独では限界があるというのが客観的だと思いますが、全部日銀に責任をかぶせてしまっています。
日銀も表立って反抗しない体質なので、中央銀行の独立性が日銀法に定められていますが、小泉政権あたりから政権の介入が強まったのにも屈して、政権の言いなりになっていきます。独立性を確保したいのですが、かといって抵抗しても政策効果をあげられる見通しなく…もし達成できたとしても、出口戦略はどうするんだ。そういう意味で、日銀内部には相当なフラストレーションがあると思いますし、全体的に無力感が漂っていますね。
日銀には優秀な人材が多いですが、最近、退職して研究者に流れているのは、やはり日銀の将来に絶望している人が多いということではないでしょうか。