この事例を知り、そこで起きる「コト」や中身から発想する建築、いわばコンテンツ発想の建築を「コン築」と名付けてみるのはどうだろうと思いました。あえてハコ発想の「建築」と一線を引いてみることで、イノベーションが起こるきっかけになるんじゃないか、と。そんなわけで「コン築」研究をしてみようかと思いました。
ニューヨークの人気スポットになっている「HIGHLINE」も「コン築」の好例です。ご存じの方も多いと思いますが、これは貨物列車の廃線を再利用した南北1.6Kmに延びる空中公園。世界中から注目されたこの設計コンペには、なんと720案ものアイデアが集まりました。そんな膨大な案の中、どうやって1番を勝ち取ったのでしょうか?
建築デザインが素晴らしかったから? もちろんそれもあったでしょう。しかし、審査員の心をつかんだのは、ハコ発想ではなくコト発想のアイデアでした。そのコンセプトはプレゼンテーションの冒頭に集約されていたそうです。
「ニューヨーカーたちは、みんな忙しそうに歩き、狭い歩道を縦に並んで歩いている。ニューヨークに必要な公園は、カップルが横に肩を並べてゆっくり歩ける場所だ」
どんなハコにするか? どんなカタチにするか? というハコ発想ではなく、どんなコトが起きれば素敵なのか、社会にとって意味があるのか。そんな中身から発想したアイデアでつくられた公園なのです。
さて、このような中身発想の「コン築」が世の中に増えていくとどうなるでしょうか。
例えば、コン築的な「学校」。みんなで教室をつくりながら、その教室で学べる学校。個性的な教室になり、学年が替わるたび変化していく。愛着も湧くでしょうから生徒たちも丁寧に教室を使ってくれそうで、まさに一石二鳥です。
例えば、コン築的「ショッピングモール」。モノをたくさん陳列する商空間ではなく「コト」をズラリと並べる。これならモノを買わないと言われる若い世代も興味を持ってくれそうです。いろいろな体験をSNSで自動的に発信してくれるでしょう。結果的にそれがモノの広告になっていきそうです。
さらに、コン築的「経営」はどうでしょう。組織という「ハコ」からつくるのでなく「コト」、つまりプロジェクトや人材づくりから始める。組織や企業自体がプロジェクトとなって成長していくイメージです。ちょっと飛躍しすぎでしょうか。
建築からコン築へ。ハコ発想からコト発想へ。ちょっとした違いのようですが、結果はずいぶん違ってくるようです。どこかの国の競技場の設計もコト発想で考えていたら、もっと面白かったかもしれません。少なくとも、聖火台を忘れたりしないでしょうから。
電通総研Bチーム◎電通総研内でひっそりと活動を続けていたクリエイティブシンクタンク。「好奇心ファースト」を合言葉に、社内外の特任リサーチャー25人がそれぞれの得意分野を1人1ジャンル常にリサーチ。各種プロジェクトを支援している。平均年齢32.8歳。
奥野圭亮◎電通総研Bチーム所属。電通1CRPクリエーティブ・ディレクター。これまでCMプランナーとして数多くのTVCMやキャンペーンを手がける。最近では広告と建築の知識を活かし、駅前開発やショッピングモール、都市計画などの分野でも活動中。