4月下旬、すでに夏の暑さが到来した沖縄では恒例の沖縄国際映画祭が開催されていた。いたるところで、沖縄の人々の深い感性と見事な表現力に感心したが、とりわけ子どもたちのダンス練習の光景が印象的だった。指導に当たっていたのはブロードウェイの超一流タップダンサー、受講者は地元の子どもたちである。全員、本格的なダンスの経験はなく、しかも初見のプログラムの練習だった。
わずか4時間の練習で、乗りのよいビートに合わせた浮き浮きするようなチームダンスを演じられるようになっていた。素晴らしいリズム感と動体能力だ。彼らの際立つセンスは天性のものなのか。ふと頭をよぎった言葉がエピジェネティクスだった。
振り仰げば真っ青な空、その先に紺碧の海が広がる。東京とは違う風土が、沖縄の人々の傑出した文化や芸能の能力を引き出しているに違いない。所与の遺伝子そのものではなく、沖縄という環境因子が遺伝子に作用しているのではないか。
そんな明るい沖縄の印象も、経済の実態を知ると一変する。1人当たりの所得は全国平均より3割少なく東京の半分以下である。失業率は群を抜いたワーストで全国平均よりも5割高い。貯蓄額は全国平均の半分以下、反対に生涯未婚率、母・父子家庭の比率が高く、貧富の差を示すジニ係数は日本最悪だ。
したがって財政支出の比重が極めて高い。国からの特別交付金は毎年3,000億円を超え、本土返還以来の累計は約11兆円にもなる。にもかかわらず、沖縄経済は低迷を続けてきた。
考えられる原因は、投入された資金が真に沖縄にマッチした分野に有効に活用されてこなかったこと、歴史と現実が絡み合った錯綜(さくそう)した県民感情、これらを背景にした沖縄特有の自治体運営の複雑さ、であろう。後二者は根が深い問題で一朝一夕にはクリアできまい。だが、前者については、沖縄自身による経済発展を真剣に考えていかなければならない。