政治

2024.12.30 15:00

ロナルドとドナルド:川村雄介の飛耳長目

Jonah Elkowitz / Shutterstock.com

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1981年4月14日だった。ワシントン大学のロビーにひしめき合うように大勢の学生たちが集まっていた。日本製のテレビを囲んでいる。やおら、大歓声が上がった。画面にはエドワーズ空軍基地にタッチダウンしたスペースシャトル、コロンビア号が大写しになっている。興奮した叫び声があがる。” He made it ! He really makes America great again !”

Heとはロナルド・レーガンである。この年、大統領に就任したばかりだった。共和党でハリウッド俳優出身、歴代最高齢の新大統領は強いアメリカをつくると公約していた。スローガンがMake America Great Again(MAGA)であった。

就任を間近に控えるドナルド・トランプも共和党で高齢記録を更新、かつエンタメ業界に縁が深くMAGAを連呼する。大統領選では両者ともに「4年前に比べて生活は良くなったか?」と訴えかけた。いずれも狙撃された経験をもつ。経済政策にも似ている部分がある。減税を断行したレーガンは、A・ラッファー博士が主唱するラッファー・カーブ理論を論拠にした。税率がある臨界点を超えると、税収はかえって下がる、米国の税率は臨界点以上のレベルにあるのでそれを引き下げれば税収が増えるという理屈である。グラフにすると花瓶を伏せたようなカーブを描くのでこう呼ばれたが、単純すぎるモデルでもあり、専門家の多くが首を傾げた。トランプはラッファーの信奉者といわれるケビン・ハセットを国家経済会議委員長に指名した。

しかし、トランプの現在までのスタンスにはレーガンとの大きな違いがある。国際関係である。レーガンは強い米国の実現のために国際関係、特に安全保障面での自国の関与を重視した。ソ連を「悪の帝国」と呼び、対ソ強硬策を貫いた。戦略防衛構想でソ連を封じ込めようともした。欧州を積極的に訪問し、中国では万里の長城で記念撮影をしている。

対してトランプは海外関与を廃して自国に閉じこもろうとしているかに見える。輸入品に高額の関税を課し、隣国のカナダやメキシコとの摩擦もいとわない。移民には厳しい態度で臨んでいる。安全保障面でも友好国への米国支援を縮小し、各国の自己負担を求めそうだ。レーガンが開放策ならトランプは鎖国政策に近い。
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文=川村雄介

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川村雄介の飛耳長目

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