だが睡眠産業が上手くいっている一方で、私たちは十分な睡眠をとることができていない(だからこそ同産業が好調なのだが)。さまざまな統計値は一貫して、私たちは、生きていく上で食物や水に次いで重要な睡眠が足りておらず、また慢性的に中断されていることを示している。
この問題について、研究者たちは毎年、意見交換や解決策の提案を行っている。2016年は6月11~15日にかけて、コロラド州デンバーで第30回米国睡眠関係学会連合集会が開かれた。同集会では数多くの興味深い対処法が提案されたが、ここでは試す価値のある2つの方法に注目したい。
一つ目は「認知シャッフル」と呼ばれる方法。「想像力を使って眠りを誘う」睡眠アプリ、マイスリープボタン(mySleepButton)を考案した研究者たちが会議で提案した。
なかなか寝付けない時や夜中に目が覚めてしまった時、人の脳は自然と不安な考え方に傾き、それがさらに不安な考えを生むという悪循環に陥ってますます寝付けなくなる。マイスリープボタンはこのパターンを、無作為なイメージなどを使って「シャッフル」することで中断する。不眠の原因となっている不安な考え方が消え去れば、いずれ眠りが訪れる。
同アプリを開発したのが、カナダにあるサイモンブレーザー大学のルーク・ブードアン非常勤教授。ブードアン率いる研究チームでは、大学生154人を対象に認知シャッフル法の実験を行い、有益な成果が得られたという。
アプリを使わずに自力で認知シャッフルを行うことも可能だが、すぐに結果を期待してはならない。
「人間の脳は、何でも意味や理屈をつけようとする。何の助けもなしに、ランダムなイメージを呼び起こすことはとても難しい」とブードアンは言う。だから羊を数えるような方法は役に立たないのだ。