社員をイノベーターに変えるアドビの「魔法の箱」

アドビのレッドボックス(ラミン・ラヒミアン = 写真)


レッドボックスの中には、1,000ドルのプリペイドカードやタスクが書かれたカードのほか、起業家に欠かせないポスト・イットやスタバのギフトカードまで入っている。

Level 1: Inception
自分自身の起業の「動機」について考える

Level 2: Ideate
どんなアイデアがあれば問題解決できるのかブレストする

Level 3: Improve
たくさん出たアイデアの中から一つを選ぶ

Level 4: Investigate
デモ版のサイトなどを作って、顧客の声を拾い集める

Level 5: Iterate
得られたデータをもとにアイデアを修正する

Level 6: Infiltrate
効果的なプレゼン方法を考え、役員の前でピッチする
→Level 6で承認を得られたら、今度はブルーボックスへ!



それにしても、アイデアの事前審査なしで参加者に一律1,000ドルを配布するというのはかなりの大盤振る舞いと言わざるをえない。これで本当にイノベーションを効率的に生み出せるのだろうか。

その疑問をぶつけると、ランドールは「1つのプロジェクトに100万ドルかけるのと、1,000のプロジェクトに1,000ドルずつかけるのでは投資額は同じでも、後者の方が確実にヒットを生み出せると気づいたんです」と語った。

同社は以前、年間10〜20くらいの新規事業案を副社長レベルで審査し、そのうち半数くらいについて、それぞれ50万〜200万ドルの予算をかけてプロトタイプを作成し、市場でテストしていた。最終的に商品化にいたるのは2〜3だったという。

このやり方の問題点は、失敗するリスクが決して小さくないということだ。「なにも、経営幹部が成功するアイデアを見分けるのに長けているわけではありません。一般に成功しているスタートアップ投資会社でも、12分の1の成功率を目標としています。だったら考え方を変えて、成功率はたとえ1%でも、もし1,000社に投資できるとしたらどうか。確率論からすると、そのうち10社くらいが成功するはずです」

そこで、審査員が経験や勘に基づいて勝者を決めるような起業コンテストやハッカソンではなく、起業家自身に自分のアイデアを審査させる仕組みを作ればどうかと、ランドールは考えた。こうして生まれたのがキックボックスだ。「主観ではなく、データに基づいてやった方が、ずっとうまくいくんです」

キックボックスはまさにデータ重視のプログラム。1,000ドルはプロダクトを作るためではなく、あくまでアイデアを検証するために使われる。「なぜなら、我々にとってプロダクトを作ることは難しくないからです。そこはリスクにはならない。最大のリスクは、ユーザーが望んでもいないものを作ってしまうことです」

プロダクトを作る前に、この1,000ドルを使ってアイデアをテストして、初期のデータをとれば、「失敗するリスクの90%を減らせる」とランドールは語る。
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増谷 康 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.20 2016年3月号(2016/01/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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