ビジネス

2016.02.21

堀場雅夫の死後、初めて息子の堀場厚が語る

Atsushi Horiba / photographs by JanBuus

フォード、ダイムラー、トヨタをはじめ世界の一流メーカーを顧客に持つ堀場製作所。学生ベンチャー第1号の父の会社を、息子がさらなる躍進へと導く。

「向こうからのプロポーズだったんですよ」

四十余年連れ添った妻の話ではない。買収の話だ。2015年7月14日、堀場製作所が自動車開発支援を手がけるイギリスのMIRA社を買収したというニュースが飛び込んだ。買収額は約155億円で、堀場製作所としては過去最大となる。

MIRA社は英中部に297haのテストコースを保有し、アストンマーチンやジャガー・ランドローバーなど自動車メーカーの車両試験と設計、開発の委託研究を行っている。エンジン排ガス計測システムで80%の世界トップシェアを握っている堀場製作所は、MIRA社のテストコースを使った試験事業や超低燃費車、自動運転などの次世代車両開発技術を取り込むことで、自動車計測事業の領域を拡大していく方針だ。8月に発表された第2四半期の決算報告では、買収による増収効果を見込み、2015年12月期通期売上高は期初予想から50億円増の1,750億円と概算している。

「傘下に入りたい」というMIRA社からのオファーが代表取締役会長兼社長の堀場厚の耳に届いたのは、昨年の4月だった。「夫婦でもそうですが、どちらがプロポーズしたかというのは、その後の主導権問題に大きく関わるんです」と堀場は笑う。

「HORIBAにマネージしてもらいたいというのは、単なるビジネスや企業規模ではなく、社是の『おもしろおかしく』を英語に意訳した『JOYandFUN』というHORIBAの企業文化そのものに共感してくれたということ。だからこそ、あえて押し付けずとも、こちらの企業文化にすぐに馴染んでくれるんです」

驚くべきことにHORIBAは今回のみならず、過去の3つの買収—仏ABX社(1996年)、仏ジョバン・イボン社(97年)、独カール・シェンク社事業(05年)—もすべて相手からのオファーだという。

「敵対的な買収もひとつのやり方だと思う。しかし買収における気持ちのよい戦略としては、やはりいかに相手から『あなたと仕事がしたい』と言わしめるかだろう」と過去のインタビューでも語っていたが、では歴史ある欧州の企業から「あなたと仕事がしたい」「あなたの下で働きたい」と逆指名的に乞われるHORIBAの企業文化は、どのように築かれてきたのだろうか。
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文=堀 香織

この記事は 「Forbes JAPAN No.16 2015年11月号(2015/09/25 発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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