「10億人を超える携帯電話契約者の大半が、向こう2、3年の間にスマホユーザーになるでしょう。今インドには新たな時代の波が押し寄せています。今後、スマホ経由のインターネットアクセスやデータ利用が爆発的に増加し、何百万人というインド国民が新たなビジネスチャンスをつかみ、SNSで交流を広げ、携帯電話を通して政治に参加することも出来るようになります」調査会社米ガートナー、インド支社のリサーチ担当取締役、アムレシュ・ナンダン氏は言う。
現在、10億人超の人口を抱える国は、世界でインドと中国の2か国だけだ。中国では、2012年に携帯電話加入者総数が10億人を突破した。インドでは、中国製を始めとする超低価格機種の登場と、通信料金の大幅引き下げといった材料に後押しされ、携帯電話加入件数は急増している。
携帯電話利用者の急増と同時に、利用方法についても様々なアイデアが革新的な形で導入されている。インドでは、今「不在着信(missed calls)」を利用して電話料金を節約するのが主流で、日本でいう「ワン切り」を友達や家族同士で合図に使ったり、サービスを提供する店舗、会社などに不在着信履歴を残すことで相手から折り返し必要な情報の提供を受けることが出来る。
当然、この新たな情報のマーケットにはスタートアップやベンチャー企業が続々と参入している。インド通信サービス業界首位のバーティー・エアテルに次ぐ携帯通信大手ボーダフォン・エッサーの取締役P.バラジ氏は、次のように述べている。「現在、インドではモバイル端末がユビキタスに普及し、固定電話に代わって通信手段の主流になっています。バッグやポケットにも入ってしまう小さな機器が、インドの人々にとって情報、教育、暮らし、雇用、ショッピングや商取引を含む幅広い世界に開かれた窓となったのです」
現在、インドのスマホ人口は1億2,500万人と、中国、アメリカに次いで世界で3番目につけているが、内需の伸びしろは、とてつもなく大きい。調査会社の米eMarketerは、2016年にはスマホ利用者数が2億人を突破してアメリカを抜き、インドが世界第2位の市場になると予測している。中国には既に5億人を超すスマホ利用者がいる。
今のところ、インドの大手通信会社の売上の約四分の1をデータ通信が占めているが、その割合は変化するだろう。通信各社は、データ通信利用者に対し魅力的な利用プランを立ち上げないわけにはいかない。今年サービスを開始する通信事業者リライアンス・ジオ・インフォコム(石油化学を主要部門とする複合企業最大手リライアンス・インダストリーズ傘下)は、大容量データを高速で送受信できる第4世代(4G)通信サービスの免許を持つ通信キャリアとして市場に参入する。インドの通信サービス業界では、通話料金、データ通信料金の値下げ等、競争の激化が進行している。
米、ベンチャーキャピタルも大規模出資
バンガロールに本社を置くアプリ制作会社ルックアップは、チャットアプリをベースとしたインド最大のマーケットプレイスになることを目指すスタートアップだ。ルックアップの創業者、ディーパック・ラヴィンドランCEOは言う。
「インドのモバイル端末革命は今始まろうとしているところです。スマホは誰でも手に入れることが出来、誰もがインターネットを利用したいと思っています」
ルックアップは、米サン・マイクロシステムスの共同設立者でもあるシリコンバレーのベンチャーキャピタリスト、ビノッド・コースラ氏のコースラ・インパクト・ファンドや、米ツイッターの共同創業者ビズ・ストーン氏、IT企業インフォシスの創業者でテックビリオネアのナラヤナ・ムルティ氏のカタマラン・ベンチャーといった投資家から出資を得ている。
ルックアップは、ローンチしてわずか半年で、120万人のアクティブユーザーと8万5千の販売業者らを集め、インドの4都市に進出した。ラヴィンドラン氏は、スマホの普及とインターネット利用者の急増で、今年度は利用者数500万人、売り手は100万人に達すると見込んでおり、15都市に進出する予定だ。
インターネット普及率の増大は、オンラインコマース、ファイナンス、ヘルスケア系サービス、eガバナンスといった分野に大きな効果を与える。2014年に10年ぶりの政権交代で発足したナレンドラ・モディ首相の人民党政府は、「デジタル・インディア」と銘打ってデジタルIT化を促進しようとしている。「スマホの普及が経済効果をもたらすのは間違いない事実です」と、前出のガートナー社、ナンダン氏は述べた。