イーロン・マスクのNeuralink(ニューラリンク)の共同創業者が設立したPrecision Neuroscience(プレシジョン・ニューロサイエンス)。米食品医薬品局(FDA)は4月17日、このプレシジョンが開発した脳インプラントの中核コンポーネントに承認を与えた。ニューラリンクの競合とされる同社のデバイスは、重度の麻痺を抱える患者の支援に活用できる可能性があるとされる。
プレシジョンは17日、FDAが同社インプラントの構成部品である「Layer 7 Cortical Interface」を承認したと発表。このコンポーネントは、脳の表面の電気活動を記録・監視・刺激する役割を果たすとされる。
この承認により、プレシジョンはLayer 7を最長30日間にわたって患者に埋め込むことが可能になり、脳信号のマッピング手術などの臨床用途向けにこのテクノロジーを販売することが可能になったと述べている。同社はすでに37人の患者でこの装置を試験しているが、今回の承認により、臨床研究プログラムを拡大すると発表した。
プレシジョンは、フォーブスに対して同社のインプラントの販売が2026年に開始する見通しだと述べている。
プレシジョンのインプラント「Layer 7」は、髪の毛の太さよりも薄い小型の黄色いデバイスで、1024個の電極で構成されている。これらの電極は脳の表面の電気活動を検知するもので、研究者や医療関係者が脳のどの部分が使用されているかをより的確に把握できるようになると、同社は述べている。またプレシジョンは、このインプラントが低侵襲である点をアピールしており、患者の言語機能や運動機能を回復させる可能性があると主張している。
一方、関係筋が米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に語ったところによると、トランプ政権が進める大規模な人員削減の影響で、FDAは機能不全に陥っており、一部のバイオテクノロジー企業の臨床試験や医薬品試験が遅延しているという。そんな1社であるDaré Bioscienceは、女性の性的興奮障害を対象とした治療法の後期臨床試験が無期限の遅延に直面した述べており、その原因が、FDAが試験結果の評価方法に関するガイダンスの提示を先送りしたことにあると主張している。
累計220億円を調達
ニューラリンクの競合の1社に挙げられるプレシジョンは、2021年にニューラリンクの共同創業者ベンジャミン・ラパポートによって設立された。脳インプラント分野では他に、ジェフ・ベゾスとビル・ゲイツが支援するSynchron Precision(シンクロン・プレシジョン)やスタンフォード大学からライセンスを受けたテクノロジーを使用したBlackrock Neurotech(ブラックロック・ニューロテック)などの企業が知られている。
プレシジョンは、昨年12月に約1億200万ドル(約145億円)をベンチャーキャピタルから調達し、累計調達額は1億5500万ドル(約221億円)に達している。
ニューラリンクは2024年、初めて人間の被験者の脳にチップを埋め込んでおり、今年1月までにさらに2人に埋め込んだとマスクは述べている。同社は今年さらに、20〜30人への埋め込みを計画しており、マスクはニューラリンクの技術によって人々が「サイバネティックな能力」を得て、心でロボットを操作できるようになると主張している。
マスクはまた、この技術がてんかんの治療や麻痺の完全な回復にも貢献可能だと述べている。しかし、一部の専門家は、ニューラリンクの技術の透明性の欠如を批判し、安全性やリスクへの懸念が、この分野全体に悪影響を与えかねないと指摘している。