AI関連のオペレーション向けデータセンターの需要が世界的に高まる中、存在感を増している国がマレーシアだ。現在、同国で進行中のデータセンター建設ブームの震源地として知られるのが、南部のジョホール州だ。シンガポールと国境を接するこの地には、かつてパーム油やゴムのプランテーションが広がっていたが、現在は巨大なテクノロジーパークに変貌した。
シンガポール政府が2019年、データセンター新設の認可を一時停止したことを受け、マレーシアは東南アジアにおけるこの分野の注目エリアに浮上した。グローバル不動産コンサルタントのナイトフランクによると、同国は過去1年間で230億ドル(約3兆3000億円)以上のデータセンター向け投資を海外から呼び込んだ。この金額はアマゾンやグーグル、オラクルなどのハイテク大手による同地域への推定投資額である440億ドル(約6兆3000億円)の半分以上を占めている。
クラウドコンピューティングやAIアプリケーションの需要が急増する中、世界のハイテク大手は、データストレージの拡大に数十億ドルを投入している。これを受け、マレーシアの富豪らはこの新たなトレンドの波に乗っている。
マレーシアで最も裕福な人物であるロバート・クオックは、シンガポール在住の孫、クオック・メン・ウェイが率いるデータセンター建設企業 K2ストラテジックを支援している。K2は、マレーシアのデータセンター容量を現状の4倍の240メガワット(MW)に急拡大する計画を進めている。
一方、マレーシア最大のコングロマリットの一つであるフランシス・ヨーが率いるYTLグループは、セメントや電力、ホテル事業を手がける一方、エヌビディアとの提携で、ジョホールに500MW規模のデータセンターハブを建設している。この施設の電力は、隣接する太陽光発電所から供給される。 さらに、不動産と建設を中核事業として12の業界で事業を展開するビリオネアのジェフリー・チアが率いるコングロマリット、サンウェイの建設部門、サンウェイ・コンストラクションも、合計で約10億リンギット(約320億円)相当のデータセンターの建設契約を獲得している。
「この分野の需要は非常に旺盛だ」と、シンガポールのメイバンクのアナリストであるフサイニ・サイフィは語る。データセンターの需要は、企業のクラウドへのデータ移行やAIアプリケーションの普及によって押し上げられており、メイバンクの推計によるとマレーシアにおいては2028年にかけて合計20億ワット(W)を超える新たな施設が建設される見通しという。