「人類初、宇宙で酒造りに挑戦します」。
ー昨年12月にとてつもなく壮大なプロジェクトを発表した、「獺祭」で知られる山口県の酒蔵・旭酒造。将来的には月で獺祭を造ることを目指し、そのための1歩として、2025年中に醸造装置を飛ばし、ISS(国際宇宙ステーション)で酒造りの実験を行う宇宙プロジェクトを進めている。今年2月には伊勢丹新宿店で、その宇宙で造られた人類初の清酒(100ml)の購入権が1.1億円で販売され、すでに買い手が付いている。売り上げは、全額が宇宙開発に寄付されるという。
「月に酒蔵を作る」夢への第一歩
グラス1杯1.1億円は、まちがいなく世界一高い酒といえるが、「宇宙と日本酒の可能性を応援したい、未来を共に見たいという感覚で購入してくれた方がいらっしゃる」と社長の桜井一宏氏はほほ笑む。
宇宙プロジェクトが立ち上がったのは約3年前。名古屋の部品メーカー高砂電気工業と三菱重工から「宇宙で何かやらないか」と持ちかけられたことに端を発する。並みの会社なら、「いやいやそんな大それた……」と引き下がりそうなものだが、桜井氏の返事は「まずはやってみましょうか」。その後のキャッチボールのなかで浮かび上がってきたのが、「月に酒蔵を作る」という夢だった。すでに月への移住計画は各国が取り組んでおり、2040~50年代には数千人単位で月に人が住み始める可能性がある。人が住むなら人生の楽しみとしてお酒は必要だ。「月での獺祭造りを目指し、その可能性を検証するのが酒蔵として最善」と考えたのだ。

実は、この「まずやってみる」姿勢こそが、旭酒造がこの30年で急成長してきた核にあるという。
「獺祭は父が立ち上げたブランドですが、当時は会社も小さく、資金もありませんでした。このままでは落ちていく一方という状況からのスタートで、試してダメなら引き返す、を繰り返してきました。そのピボットの速さー状況に応じて素早く方向修正しながら進んできた結果、今の形になったのです」と桜井氏は振り返る。