「遊びなら本気で」 4万円の日本酒と韓国牛のペアリング
2025年3月にソウルで開かれた「アジアのベストレストラン50」オフィシャルパーティーの2日前には、韓国のシェフ向けのイベント「Metizen Night」で獺祭を振舞った。
じゅうじゅうと香ばしい香りと煙を上げる韓国牛とともに、ゲストが手にしているのは、もちろん獺祭のグラス。しかも「磨き その先へ(税込41800円)」「未来へ 農家と共に(税込18700円)」といった1本数万円もする日本酒までぽんぽん開いている。
「ペアリングは、ある意味遊びみたいな部分もある。遊びなら本気でやったほうが楽しいので、一番いい酒を出しました」と桜井氏。Netflixの料理ドキュメンタリー『白と黒のスプーン』に出演した有名シェフなども参加し、夜中まで盛り上がったという。
桜井氏といえば、2006年に入社後、海外での営業を担当し、草の根的に獺祭を世界に広めてきた立役者だ。社長自らテーブルをまわり、名刺交換し言葉を交わす謙虚な姿に、アメリカ市場開拓時代から地を這うようにして草の根活動をしていた若き桜井氏の姿が目に浮かぶようだった。
「日本酒には大きな可能性があると感じています。同時にまだまだ知られておらず、『日本食と一緒でしか飲まないもの』というイメージが根強いのを実感しています」と話す桜井氏。そのため「さまざまなアプローチを試しながら、多くの人に日本酒を楽しんでもらう機会を増やしていきたい」と考えている。
「日本酒は日本食だけじゃない」。伝えた先に1000億
24年度には売上高が過去最高となる195億円を達成、約半分が海外の売上を占める同社。アメリカ、中国、シンガポールなどを中心に輸出先は40カ国以上に増加し、今では日本酒全体の輸出の2割を占める。
さらなるブランド力強化のため、2025年6月1日より旭酒造株式会社から「株式会社獺祭」へと社名変更し、獺祭1本で勝負する、という"本気の本気"を世に示した。外国人でも発音のしやすい"Dassai"というネーミング、磨き率の「23」や「39」という数字でランク分けされたラインナップは、海外にも受け入れられやすいだろう。
公式発表の売上目標は、1000億円——。内訳は国内300億円、海外700億と海外に比重をシフトする。「目標」とは銘打っているものの、売上は「世界の中で存在感をきちんと得るブランドになる」ための手段の一つだ。
「『日本酒は日本食だけじゃない』というメッセージを伝え、新しい食文化を作っていくことが、さらに日本酒や日本のモノづくりの可能性を広げ、世界でのブランド認知にもつながっていくと思います」と桜井氏は力を込める。
失敗を恐れぬ挑戦で破竹の成長を続け、酒好きなら誰もが読み方を知っている現在、社員は約300人(うち製造メンバが210名)、年間生産本数は約850~900万本(750ml換算)にまで成長した。2028年にはプレミアム日本酒のみを醸す第三蔵も完成する予定だ。
「小さな」酒蔵から、世界、そして宇宙へ——。獺祭の進化は止まらない。


