キャリア・教育

2025.04.08 13:30

ECSAIT(エクサイト)の時代:田坂広志「深き思索、静かな気づき」

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ただし、これまでは、この方法を実行するには、傍に英語の達者な先輩がいて、逐次、適切な英語の表現や語彙を教えてくれる必要があり、それは、現実的ではなかった。しかし、本格的なAI時代を迎え、我々は、いつも傍に「英語の達者な先輩」を置いておくことができるようになったのである。

すなわち、このECSAITの技法を使い、商談や交渉で伝えたい内容を、まず日本語で考え、直後に、その英訳されたものを見て学ぶという方法は、いまや、最も効率的で効果的な学習法になったのである。

第2に、ECSAITの時代には、「英語力」の奥にある「ビジネス力」こそが真に評価されるようになる。

筆者は永年、国際会議の場を数多く経験してきたが、「英語は流暢だが、あまり中身の無い話をする人物」と、その逆の、「英語はあまり上手くないが、説得力のある話、創造的な視点の話をする人物」を見てきた。しかし、前者の人物は、「日本人全体が英語下手」という時代には、「英語が喋れる」というだけで重宝されてきた。だが、誰もが適切な英語文章が書け、早晩、AI音声通訳さえ普及するECSAITの時代には、「英語力」の奥にある「ビジネス力」、発想力や企画力、営業力や交渉力、決断力や行動力こそが評価されるようになる。

第3に、英語コミュニケーションが、「ビジネスの世界」から「全人的な世界」に広がっていく。

もし我々が、ビジネスにおいて、相手と真に良い関係を築きたいならば、単に仕事の話をするだけでなく、ときに、趣味や興味、映画や読書、音楽やアートの話をすることが、互いの人柄や人間性を知る意味でも大切である。しかし、これまで我々が学んできたビジネス英語では、そうした「全人的対話」の世界には、感性的・知的な表現や語彙の不足により、なかなか踏み込めなかった。

しかし、ECSAITの時代には、こうした感性的・知的メッセージを伝えることは容易になる。そして、その世界に踏み込んでこそ、人間同士のコミュニケーションは深く、豊穣なものになるのである。

筆者が預かる学園は、アート系の教育を行っているが、毎年、世界40か国から800点を超えるアート作品が集まるオンライン展を開催している。

そこで、1万名の学生には、それらの作品を見て、その印象や感想を、ECSAITを使い、作者に直接、英語で伝えることを勧めている。それは、単なる英語教育を超えた、豊かな世界に向かうだろう。


田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、21世紀アカデメイア学長。多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)専門家会議元メンバー。元内閣官房参与。全国8600名の経営者が集う田坂塾塾長。著書は『人類の未来を語る』『教養を磨く』など100冊余。tasaka@hiroshitasaka.jp

文=田坂広志

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田坂広志の「深き思索、静かな気づき」

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