右傾化
テスラが政治的に右寄りの消費者層に食い込む可能性はある。裕福さでは民主党支持層に軍配が上がり、調整後所得額が21万5400ドル(約3250万円)以上の世帯が53%以上を占めるのに対し、共和党支持層では46%にとどまる。一方、14万3600~21万5400ドル(約2170万~3250万円)未満の高中所得層(アッパーミドル)では、共和党寄りの世帯が52%と、民主党寄りの46%を上回る。
「HENRY(high-earner-not-rich-yet:まだ裕福でない高所得者)」とも呼ばれるアッパーミドルの人々にとって、ステータスシンボルとして高級ブランドを購入することは、実際に裕福な人々よりも大きな意味を持つ場合が多い。
「最高位のインフルエンサー」への影響力
ビジネスリーダーと政治家の蜜月には長い歴史があるが、マスクはそれを新たな段階へと引き上げた。トランプは3月11日、ホワイトハウス前にテスラ車を並べ、乗り込む姿を報道陣に披露。大統領自らテスラを無償で宣伝した。他の政権高官も、テスラ車とテスラ株への支持を表明している。発表されたばかりの輸入車に対する25%の関税も、欧州の主要高級自動車ブランドに対するテスラの競争力を高めることになりそうだ。
フォーブスの長者番付で一時マスクを抜いて首位に立ったこともあるLVMHのアルノーCEOは、トランプと長く友好関係を維持しているが、業界をリードする高級ブランドのイメージに明らかな傷はついていない。たとえば、ルイ・ヴィトンは2025年上半期のヴォーグ・ビジネスインデックスで、最も称賛すべき革新的なグローバルラグジュアリーブランドの1位に選ばれた。アルノーはマスクと同様に、大統領との個人的なつながりを利用して、世界最大の高級品市場である米国事業の成長を円滑に促進する手段にしている。
ノーリスク・ノーリターン
「企業リーダーは党派政治に関与するにあたり、ブランドイメージ、ひいてはブランドの利益を損なう危険を冒している」とパナゴプロス教授らは警告している。しかし、マスクが自身の政治的な活動によってテスラや他のブランドに及ぶであろうリスクと旨みを慎重に評価したうえで、最終的に利点のほうが大きいと判断したのではないと考えるのは、無理があるだろう。