これらの指標において、テスラ・ブランドの印象は党派間で大きく分裂していた。マスクがMAGA運動に参加した後、民主党支持層のトレンドラインは徐々に低下し、共和党支持層のトレンドラインは上昇している。
ただ、マスクのトランプ支持表明前後では、民主党支持層のテスラ購入意欲は平均9.1%から8.9%へとわずかに低下しただけだった。一方、共和党支持層では7%から10.2%へと購入意欲が大きく上昇した。著名なテスラ投資家であるソーヤー・メリットはレポートで、新規購入者の増加を示唆。X(旧ツイッター)への投稿でも、旧型のテスラ・モデルYが新型投入前の在庫一掃セールの対象となっており、共和党支持者が多い「赤い州」を中心に全米29州のディーラーでほぼ完売したと主張した。
筆者はテスラに事実関係の確認とコメントを求めたが、回答は得られなかった。
テスラの「運転席」からマスクを追い出す
ウェドブッシュ証券のテスラ担当アナリスト、ダン・アイブスが「マスクはテスラであり、テスラはマスクだ」と述べているとおり、マスクとテスラ・ブランドとのつながりについては脆弱性と見る向きが強い。しかし、革新的なブランドは創業者と密接に結びついているものだ。ビル・ゲイツとマイクロソフト然り、スティーブ・ジョブズとアップル然り、ジェフ・ベゾスとアマゾン然りである。
ラグジュアリー市場を見れば、ココ・シャネル、ティエリー・エルメス、ルイ・ヴィトン、グッチオ・グッチ、クリスチャン・ディオール、マリオ・プラダ、ルイ・フランソワ・カルティエなどがいる。しかし、いずれのブランドもそれぞれリーダーシップのバトンがうまく受け継がれている。
テスラは、テクノロジーとファッションの交差するユニークな立ち位置にある。外観がまず目を引くテスラ・サイバートラック・ビーストが好例だ。テスラ投資家で資産運用会社ガーバー・カワサキのCEOであるロス・ガーバーは、テスラにおいて経営権の移譲は「起こらないだろう」と見ているが、それは不可能ではないかもしれず、それどころかブランドのためになるかもしれない。たとえばクリスチャン・ディオールは、ベルナール・アルノーが買収してLVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンという「ラグジュアリー帝国」を築く前は、いつ潰れてもおかしくない状態だった。