米シカゴ大学ロースクール(法科大学院)が行った新しい研究で、人間による司法判断とAI(人工知能)のそれとの間に際立った違いがあることが明らかになった。司法制度におけるテクノロジー活用に関する認識を大きく変える可能性のある研究結果だ。
エリック・A・ポズナー教授とシヴァム・サラン研究員は、米OpenAIが開発した生成AIモデル「GPT-4o」を用いて、米連邦裁判所判事31人を対象にした国際戦争犯罪の仮想裁判実験の再現研究を行った。
人間の裁判官はどのように判断するか
米独の法学者が手掛けた先行研究では、経験豊富な法曹が仮想の裁判事例においてどのような判断を下すかを調べている。この実験には全米のさまざまな司法管轄区から、連邦司法の各分野をほぼ網羅する平均勤続年数17年の連邦判事31人が参加した。
実験では国際戦争犯罪の上級審における仮想裁判を検討材料とし、基本となる事件はそのままに、背景事情や判断条件などを変えた訴訟パターンをいくつか作成。被告人の人物像に法的には事件と無関係だが同情を誘う背景情報を盛り込んだり、逆にまったく同情の余地のない人物に見えるよう仕向けたり、下級審で判例どおりの判決が出た場合と、判例と矛盾する判決が出た場合でパターンを分けたりした。
この巧妙な設計により、判事の判断に実際に影響を与えたのが判例なのか、それとも被告人に対する判事の感情なのかを確認することができた。
実験には法学部の学生130人も参加し、法律の訓練を受けてはいるが司法経験のない人と法曹との興味深い比較が可能となった。
実験結果には特筆すべき発見があった。それは、人間の裁判官が被告人に同情できる事情があるかどうかに大きな影響を受け、この傾向は被告人の事情が事件と法的に関連性がなく情状酌量につながらない要素であっても変わらなかったことだ。同情を誘う被告人に相対した場合、法曹の判断はしばしば厳格な判例から逸脱した。対照的に、法学部の学生たちは同情的要因の影響がはるかに少なく、判例により忠実だった。
これは、裁判官の下す判決はただ機械的に法規を適用するものではなく、感情、社会的背景、自身の正義感など、法規外のさまざまな要因に影響されるという「リアリズム法学(法現実主義)」の理論を実証する結果だ。また、判事がキャリアを積む過程で、厳格に法規に従う形式主義から遠ざかる何らかのきっかけに出くわすとみられることも示唆している。